思い出したのは、いったん家に帰り、通学鞄の代わりに準備していたボストンバッグを肩にかけてから、ふたたび家を出たあと。
 彼の家は、あたしの家とわりと近い。十分も歩けば着いてしまう。だけど空には眩しいぐらいの夕焼けが広がっていて、まだ夜には遠い。
 べつに夜にしなければいけないというわけでもないのだけれど、せっかくなら炎が映えるほうがいいと、昨日思った。
 だからあたしは時間をつぶすため、彼の家とは反対方向へ足を向け、夕陽に浸された土手沿いの道をあてもなく歩いていた、その途中で。
 唐突に、思い出した。
 ――『夕陽にさよなら』ってタイトルなんだけどさ。
 彼があたしにその漫画を教えてくれて、あたしがたしかに、それを読みたいと言った日のことを。