2
馬車の後ろに、のこぎりで手足を切られた魔族の女が鎖で繋がれている。
この捕獲された「人食い魔女」は一通りにエルフや人間の女たちから「同性ゆえにかえって無慈悲な」制裁と拷問・虐待を受けて、凌辱されていた。皆が見ている前で犬と交尾させ、極太の棒きれを股間に二本押し込んで、漏斗で大量の水を飲ませた。それで吊し上げ、三カ月の妊婦のように膨らんだ腹を怒った女たちが順番で殴り続けたのだ。
今は馬車の後ろにつないで引きずり回し、「便所」にしている。訪れる女たちがスカートをめくって小便をかけて、罵倒するのだ。
「可哀想」
たまたま偶然に近寄ってしまった一人の小さな男の子が、それを見て呟く。
レオはまだほんの三歳くらい。半魔であるサキュバス姫男爵の息子のエルフだから、魔族の血筋も引いている。あるいは、哀れな捕虜の女を母親と似た何かとでも思ったのか。
「ちょっとだけ、ママに似ているし」
居合わせたガジュマルは頭を振った。
「こいつはな、お前の母ちゃんのサキさんとは違うんだよ。人を襲って食べる悪い奴なのさ。だからみんな怒っている。逃がしたら、また悪いことするし、犠牲者が出る」
「そうなの?」
「そうさ。敵なんだ」
決まり悪そうなガジュマルに、小さなレオは考え顔になっていたが、ややあって言った。
「だったら、僕が殺して楽にしてあげていい? こんなの、あんまり可哀想だよ」
呆気にとられて、返事に困る。しかし少年の目を見て本気なのだと悟る。「賢い子供だな」と思いつつ。
「わかったよ」
ガジュマルは魔女を押さえつけ、レオが小さなナイフで喉を切る。どうせいつかは自分でやるしかなくなるのだから、決断を助けることにしたのだ。最初に手を下す理由が優しさや慈悲の方が、手遅れな憎悪や復讐より救われる気もした。
そして半死半生だった魔族の女はどこか安堵の表情で息を引き取った。きっと、これで良かったのだと思いながら、半泣きの小さな男の子の頭を撫でてやる。
「よくやった。上出来だ」
そこへ、ドワーフの若い女が二人やって来る。あらかた用を足しにきたのだろうが、予想外の光景驚いているようだった。
「殺しちゃったの? まだもうちょっと可愛がってやろうと思ってたんだけど。・・・それにレオ君にそんなことをさせるなんて!」
「男が決断してやったことに、女がピーピー言うんじゃねえ」
それは、レオの一番幼い頃の思い出だ。彼は先天的なエルフの「狩人」だったらしいが、成長後のアイデンティティにも影響を残した遠い記憶の物語。
馬車の後ろに、のこぎりで手足を切られた魔族の女が鎖で繋がれている。
この捕獲された「人食い魔女」は一通りにエルフや人間の女たちから「同性ゆえにかえって無慈悲な」制裁と拷問・虐待を受けて、凌辱されていた。皆が見ている前で犬と交尾させ、極太の棒きれを股間に二本押し込んで、漏斗で大量の水を飲ませた。それで吊し上げ、三カ月の妊婦のように膨らんだ腹を怒った女たちが順番で殴り続けたのだ。
今は馬車の後ろにつないで引きずり回し、「便所」にしている。訪れる女たちがスカートをめくって小便をかけて、罵倒するのだ。
「可哀想」
たまたま偶然に近寄ってしまった一人の小さな男の子が、それを見て呟く。
レオはまだほんの三歳くらい。半魔であるサキュバス姫男爵の息子のエルフだから、魔族の血筋も引いている。あるいは、哀れな捕虜の女を母親と似た何かとでも思ったのか。
「ちょっとだけ、ママに似ているし」
居合わせたガジュマルは頭を振った。
「こいつはな、お前の母ちゃんのサキさんとは違うんだよ。人を襲って食べる悪い奴なのさ。だからみんな怒っている。逃がしたら、また悪いことするし、犠牲者が出る」
「そうなの?」
「そうさ。敵なんだ」
決まり悪そうなガジュマルに、小さなレオは考え顔になっていたが、ややあって言った。
「だったら、僕が殺して楽にしてあげていい? こんなの、あんまり可哀想だよ」
呆気にとられて、返事に困る。しかし少年の目を見て本気なのだと悟る。「賢い子供だな」と思いつつ。
「わかったよ」
ガジュマルは魔女を押さえつけ、レオが小さなナイフで喉を切る。どうせいつかは自分でやるしかなくなるのだから、決断を助けることにしたのだ。最初に手を下す理由が優しさや慈悲の方が、手遅れな憎悪や復讐より救われる気もした。
そして半死半生だった魔族の女はどこか安堵の表情で息を引き取った。きっと、これで良かったのだと思いながら、半泣きの小さな男の子の頭を撫でてやる。
「よくやった。上出来だ」
そこへ、ドワーフの若い女が二人やって来る。あらかた用を足しにきたのだろうが、予想外の光景驚いているようだった。
「殺しちゃったの? まだもうちょっと可愛がってやろうと思ってたんだけど。・・・それにレオ君にそんなことをさせるなんて!」
「男が決断してやったことに、女がピーピー言うんじゃねえ」
それは、レオの一番幼い頃の思い出だ。彼は先天的なエルフの「狩人」だったらしいが、成長後のアイデンティティにも影響を残した遠い記憶の物語。