私が住む村にはある伝説がある。
遥か昔、人間を憎んだ大蛇が村を襲い大勢の犠牲を出した。そして、村の守り神である龍神様が巫女の少女と共に大蛇を倒し無事平和を取り戻した。
龍神様は巫女の少女に共に戦ってくれた御礼として癒しの異能を授けてくれた。
異能は、傷ついた人や病に倒れた人を分け隔てなく発揮させることは龍神様との約束の一つだ。
私はその巫女の末裔で龍神の巫女の名と異能を受け継ぎ村の人達を約束通り分け隔てなく助けている。
「陽子様。ありがとうございます。貴女がいなかったら息子は今頃…!!」
「そんな私はただ龍神様から受け取った異能を使っただけだから」
病に伏せていた小さな男の子は元気を取り戻し嬉しそうに彼のお母様に抱きついた。お母様のは大事そうに男の子の頭を撫でた。
「そんなことございません!!陽子様だからこそこの力があるのですよ!もし、玲奈様が異能を継いでいたら…」
癒しの異能を施した男の子のお母様の口から発せられた玲奈という女の子の名前。その子は私の血の繋がらない妹だ。
彼女は、継母の連れ子でとても可愛らしい顔をしている。けれど、顔には見合わない程の悪意を私に見せてくる。彼女の母親も同じ。
「玲奈はまだ子供ですから仕方ないですよ」
玲奈とお継母様は村の人達からはあまり良く思われていない。
それとは対照的にお父様は玲奈にすごく甘い。私が持っているモノを強請り奪ってゆく。少しでも抵抗すればお父様はすぐに叱責し手を出してきた。
お母様が遺した着物や装飾品は殆どお継母様と玲奈にモノになってしまった。
でも、一つだけ死守したものがある。
巫女の務めを終えた帰り道に懐から大事なモノを取り出し眺めた。
「お母様。今日も無事に巫女の務めを終えることができました。村の皆さんを救えました」
その大事なモノとはお母様がいつも身に付けていた紅珊瑚の簪。雲ひとつない夜空の様に美しい髪にとてもよく似合っていたのを覚えてる。
私も大きくなったらお母様の様になりたいって思わせてくれた。
まだまだお母様の様に上手くいかない。けれど、いつかお母様みたいに龍神様のお力になれる様に一歩ずつ近づこうと日々努力している。
私の元気の源の一つ。そしてもう一つは。
「お疲れ。もう終わった?」
「和正!」
「なかなか帰ってこないから様子見に来た。大丈夫?」
「うん。平気。でも、お腹すいちゃった」
「そりゃ限界まで異能を使うから仕方ないよ。僕も陽子みたいに力があれば助けてあげられるのに」
心配そうに私を見つめる神社の宮司の跡取りであり幼馴染の和正を安心させる様に微笑んだ。
「その言葉だけで十分よ。ここまでこれたのは和正のお陰よ。ありがとう」
この笑顔はそれだけの意味ではない。愛しさを込めたものだ。
私と和正は少し前に結婚した。幼馴染同士でお互い想い合っていた。
この村の掟として龍神様が祀られている神社の宮司は龍神の巫女としか結婚を許されていない。それもあっていつ結婚するんだとずっと周りに言われた程だ。
和正から告白された日は一生の思い出になるだろう。
そして、私が彼を好きになった訳も。
お母様が亡くなってからずっと塞ぎ込んでいた私を和正はそっと寄り添ってくれた。
『絶対に陽子のそばから離れない。陽子のこと絶対に守るから。幸せにする。だからもう泣かないで』
抱きしめながら私に言ってくれた言葉はお母様を失って絶望していた心に一筋の光を与えてくれた。和正を心の底から好きになった忘れられない素敵な日。あの時のこと和正に話すと恥ずかしそうに顔を赤らめる。
そんな様子を見るたびに私は幸せを感じていた。
だが、その幸せを快く思わない人達も当然いる。
「おかえりなさぁい。お姉様ぁ」
「……ただいま玲奈」
和正と共に家に帰ると出迎えてくれたのは妹の玲奈だ。玲奈は私の帰りを面倒くさそう待っていた。まるで帰って来なくていいのにと言いたげな様子で。
私の隣にいる和正に対しては真逆だ。
「おかえりなさいませ♪和正様ぁ♪無事でなりよりですわ♪」
「あ、うん。た、ただいま。玲奈ちゃん」
ずっと貴方の帰りを待っていたのっと嬉しそうに和正の腕に抱きつく玲奈。
困り果てる和正を見て私は玲奈を咎めようと口を開こうとするが、妹の背後から現れたお父様とお継母様の姿を見て口を慎んだ。
今、彼らの前で玲奈に対して何か言ったらどうなるかもう分かってしまう。
「っ、ただいま戻りました。お父様、お継母様」
「戻ったか」
「まったく…また異能を村の者達に施してきたのね。あの異能は高貴な方にしか使うなとあれ程…!!」
お継母様は癒しの異能は位の高い者だけに施せとしつこい。
金にならない先代の龍神の巫女のその一族がずっと守ってきた事を彼女は気に入らないのだ。
私はため息混じりにいつも通り反論する。
「龍神様は癒しの異能を分け隔てなく使えとおっしゃっております。身分が高い者のみになんてできません」
「本当生意気な娘ね!あの女そっくり!!」
「そう怒るな。いずれ自分がしている行為がどんなに愚かかすぐに分かるさ」
お父様は不機嫌なお継母様を宥める。
彼が私に肩を持つことはない。寧ろ邪魔者を見る様な目で私を見る。彼の中で愛する家族はお継母様と玲奈だけ。
特に玲奈に関して何かあったら幾ら実の娘でも平気で殴ってくるほどだ。
私が和正と結婚する時も、金の無駄だと騒いだお継母様の願い通り私達の婚姻の儀を挙げることを禁止させたぐらい。
私は家族ではない。ただの特別な異能を持った道具にすぎないのだろう。
「玲奈が巫女の名と異能を受け継ぐべきなのに!!あの伝説の巫女の一族だからって…!!」
もし、玲奈が巫女の名と異能を継いだらどうなるかすぐに想像できる。この村はきっと廃れてしまうだろう。
ウフフっと楽しそうに和正から離れると玲奈はお継母様達に甘えに行った。
その姿はまさに私が憧れていた家族の姿だった。あの輪に私はいない。
私は和正と共に足早に部屋に戻ろうとしたが、この光景を見て心を掻き乱された私は一人になりたくなった。
和正に全てをぶつけて迷惑をかけてしまいそうで怖かったからだ。
「和正。ごめんなさい。少し一人にさせてくれない?ちょっと疲れちゃって」
「そうだよね…分かった。何かあったらすぐに呼んで」
「ありがとう」
私は背後で楽しそうに笑う家族の声を聞きながら自室に戻った。
暗い自室の鏡台の前に座り、形見の簪を見つめる。
「お母様。もし、お母様が生きていたらお父様は優しいままでしたよね……?」
タラレバばかり呟いてしまう。
まだ、玲奈とお継母様が来る前はとても良くしてくれたお父様。私の成長を嬉しそうにお母様と共に見守ってくれていた人は変わってしまった。もう元に戻ることはないまでに。
こんな日々が続くならいっそのことこの家から出て行こうかと思ってしまう。でも、お母様との幸せな思い出が詰まったこの家を離れるのは辛い。
幸せだけど家族によって荒らされる。そんな日々が続く私にまたあの不思議な来客がやってくる。
庭の方に目をやると夜空から私の元に白鷺が舞い降りてきた。
「また来たのね。まぁ、素敵なお花」
白鷺は白い百合の花を咥えていた。百合の花を私にそっと渡すと白鷺は私に頬擦りした。ふわふわした羽根がくすぐったい。
いつも悲しんでいる私を元気付かせようとしてくれる。不思議な白鷺。
この子が現れたのは私が生まれた日だとお母様から聞いていた。どうして私をずっと見守ってくれているのだろう。
でも、この子のお陰で私は救われている。
「ありがとね。白鷺さん」
白鷺の頭を撫でると、嬉しそうな様子で再び夜空へ飛び立っていった。
「不思議な白鷺」
美しい満月に向かって飛び立っていった白鷺を見守りながら私は形見の簪を強く握ったのだった。
玲奈が一人になった和正を呼び止め、彼の耳元で何かを囁いた。
「和正さぁん?今一人?ちょうど良かったわ。実は大事なお話があるんだけど」
「え?大事な話?」
「うん♪だからぁ私の部屋に一緒に来て?いいでしょ?」
玲奈は不敵な笑みを浮かべる。和正は可愛らしい彼女の笑顔に目が離せなくなっていた。
玲奈の大切な話は和正が口から手が出るほど欲しがっているモノ。その答えのカケラを玲奈は楽しそうに言った。
「私ならあげられるよ?和正様が欲しいモノ♪お姉様があげてくれない素晴らしいモノをね…♪」
遥か昔、人間を憎んだ大蛇が村を襲い大勢の犠牲を出した。そして、村の守り神である龍神様が巫女の少女と共に大蛇を倒し無事平和を取り戻した。
龍神様は巫女の少女に共に戦ってくれた御礼として癒しの異能を授けてくれた。
異能は、傷ついた人や病に倒れた人を分け隔てなく発揮させることは龍神様との約束の一つだ。
私はその巫女の末裔で龍神の巫女の名と異能を受け継ぎ村の人達を約束通り分け隔てなく助けている。
「陽子様。ありがとうございます。貴女がいなかったら息子は今頃…!!」
「そんな私はただ龍神様から受け取った異能を使っただけだから」
病に伏せていた小さな男の子は元気を取り戻し嬉しそうに彼のお母様に抱きついた。お母様のは大事そうに男の子の頭を撫でた。
「そんなことございません!!陽子様だからこそこの力があるのですよ!もし、玲奈様が異能を継いでいたら…」
癒しの異能を施した男の子のお母様の口から発せられた玲奈という女の子の名前。その子は私の血の繋がらない妹だ。
彼女は、継母の連れ子でとても可愛らしい顔をしている。けれど、顔には見合わない程の悪意を私に見せてくる。彼女の母親も同じ。
「玲奈はまだ子供ですから仕方ないですよ」
玲奈とお継母様は村の人達からはあまり良く思われていない。
それとは対照的にお父様は玲奈にすごく甘い。私が持っているモノを強請り奪ってゆく。少しでも抵抗すればお父様はすぐに叱責し手を出してきた。
お母様が遺した着物や装飾品は殆どお継母様と玲奈にモノになってしまった。
でも、一つだけ死守したものがある。
巫女の務めを終えた帰り道に懐から大事なモノを取り出し眺めた。
「お母様。今日も無事に巫女の務めを終えることができました。村の皆さんを救えました」
その大事なモノとはお母様がいつも身に付けていた紅珊瑚の簪。雲ひとつない夜空の様に美しい髪にとてもよく似合っていたのを覚えてる。
私も大きくなったらお母様の様になりたいって思わせてくれた。
まだまだお母様の様に上手くいかない。けれど、いつかお母様みたいに龍神様のお力になれる様に一歩ずつ近づこうと日々努力している。
私の元気の源の一つ。そしてもう一つは。
「お疲れ。もう終わった?」
「和正!」
「なかなか帰ってこないから様子見に来た。大丈夫?」
「うん。平気。でも、お腹すいちゃった」
「そりゃ限界まで異能を使うから仕方ないよ。僕も陽子みたいに力があれば助けてあげられるのに」
心配そうに私を見つめる神社の宮司の跡取りであり幼馴染の和正を安心させる様に微笑んだ。
「その言葉だけで十分よ。ここまでこれたのは和正のお陰よ。ありがとう」
この笑顔はそれだけの意味ではない。愛しさを込めたものだ。
私と和正は少し前に結婚した。幼馴染同士でお互い想い合っていた。
この村の掟として龍神様が祀られている神社の宮司は龍神の巫女としか結婚を許されていない。それもあっていつ結婚するんだとずっと周りに言われた程だ。
和正から告白された日は一生の思い出になるだろう。
そして、私が彼を好きになった訳も。
お母様が亡くなってからずっと塞ぎ込んでいた私を和正はそっと寄り添ってくれた。
『絶対に陽子のそばから離れない。陽子のこと絶対に守るから。幸せにする。だからもう泣かないで』
抱きしめながら私に言ってくれた言葉はお母様を失って絶望していた心に一筋の光を与えてくれた。和正を心の底から好きになった忘れられない素敵な日。あの時のこと和正に話すと恥ずかしそうに顔を赤らめる。
そんな様子を見るたびに私は幸せを感じていた。
だが、その幸せを快く思わない人達も当然いる。
「おかえりなさぁい。お姉様ぁ」
「……ただいま玲奈」
和正と共に家に帰ると出迎えてくれたのは妹の玲奈だ。玲奈は私の帰りを面倒くさそう待っていた。まるで帰って来なくていいのにと言いたげな様子で。
私の隣にいる和正に対しては真逆だ。
「おかえりなさいませ♪和正様ぁ♪無事でなりよりですわ♪」
「あ、うん。た、ただいま。玲奈ちゃん」
ずっと貴方の帰りを待っていたのっと嬉しそうに和正の腕に抱きつく玲奈。
困り果てる和正を見て私は玲奈を咎めようと口を開こうとするが、妹の背後から現れたお父様とお継母様の姿を見て口を慎んだ。
今、彼らの前で玲奈に対して何か言ったらどうなるかもう分かってしまう。
「っ、ただいま戻りました。お父様、お継母様」
「戻ったか」
「まったく…また異能を村の者達に施してきたのね。あの異能は高貴な方にしか使うなとあれ程…!!」
お継母様は癒しの異能は位の高い者だけに施せとしつこい。
金にならない先代の龍神の巫女のその一族がずっと守ってきた事を彼女は気に入らないのだ。
私はため息混じりにいつも通り反論する。
「龍神様は癒しの異能を分け隔てなく使えとおっしゃっております。身分が高い者のみになんてできません」
「本当生意気な娘ね!あの女そっくり!!」
「そう怒るな。いずれ自分がしている行為がどんなに愚かかすぐに分かるさ」
お父様は不機嫌なお継母様を宥める。
彼が私に肩を持つことはない。寧ろ邪魔者を見る様な目で私を見る。彼の中で愛する家族はお継母様と玲奈だけ。
特に玲奈に関して何かあったら幾ら実の娘でも平気で殴ってくるほどだ。
私が和正と結婚する時も、金の無駄だと騒いだお継母様の願い通り私達の婚姻の儀を挙げることを禁止させたぐらい。
私は家族ではない。ただの特別な異能を持った道具にすぎないのだろう。
「玲奈が巫女の名と異能を受け継ぐべきなのに!!あの伝説の巫女の一族だからって…!!」
もし、玲奈が巫女の名と異能を継いだらどうなるかすぐに想像できる。この村はきっと廃れてしまうだろう。
ウフフっと楽しそうに和正から離れると玲奈はお継母様達に甘えに行った。
その姿はまさに私が憧れていた家族の姿だった。あの輪に私はいない。
私は和正と共に足早に部屋に戻ろうとしたが、この光景を見て心を掻き乱された私は一人になりたくなった。
和正に全てをぶつけて迷惑をかけてしまいそうで怖かったからだ。
「和正。ごめんなさい。少し一人にさせてくれない?ちょっと疲れちゃって」
「そうだよね…分かった。何かあったらすぐに呼んで」
「ありがとう」
私は背後で楽しそうに笑う家族の声を聞きながら自室に戻った。
暗い自室の鏡台の前に座り、形見の簪を見つめる。
「お母様。もし、お母様が生きていたらお父様は優しいままでしたよね……?」
タラレバばかり呟いてしまう。
まだ、玲奈とお継母様が来る前はとても良くしてくれたお父様。私の成長を嬉しそうにお母様と共に見守ってくれていた人は変わってしまった。もう元に戻ることはないまでに。
こんな日々が続くならいっそのことこの家から出て行こうかと思ってしまう。でも、お母様との幸せな思い出が詰まったこの家を離れるのは辛い。
幸せだけど家族によって荒らされる。そんな日々が続く私にまたあの不思議な来客がやってくる。
庭の方に目をやると夜空から私の元に白鷺が舞い降りてきた。
「また来たのね。まぁ、素敵なお花」
白鷺は白い百合の花を咥えていた。百合の花を私にそっと渡すと白鷺は私に頬擦りした。ふわふわした羽根がくすぐったい。
いつも悲しんでいる私を元気付かせようとしてくれる。不思議な白鷺。
この子が現れたのは私が生まれた日だとお母様から聞いていた。どうして私をずっと見守ってくれているのだろう。
でも、この子のお陰で私は救われている。
「ありがとね。白鷺さん」
白鷺の頭を撫でると、嬉しそうな様子で再び夜空へ飛び立っていった。
「不思議な白鷺」
美しい満月に向かって飛び立っていった白鷺を見守りながら私は形見の簪を強く握ったのだった。
玲奈が一人になった和正を呼び止め、彼の耳元で何かを囁いた。
「和正さぁん?今一人?ちょうど良かったわ。実は大事なお話があるんだけど」
「え?大事な話?」
「うん♪だからぁ私の部屋に一緒に来て?いいでしょ?」
玲奈は不敵な笑みを浮かべる。和正は可愛らしい彼女の笑顔に目が離せなくなっていた。
玲奈の大切な話は和正が口から手が出るほど欲しがっているモノ。その答えのカケラを玲奈は楽しそうに言った。
「私ならあげられるよ?和正様が欲しいモノ♪お姉様があげてくれない素晴らしいモノをね…♪」