私達はあの時のおでかけの続き、遂に海に向かうことになった。
前のおでかけの時とは違って、桜色のワンピースという衣服を着て海に出かけたのだ。
初めて見る海は絵で見た時とは違う、太陽に照らされてキラキラしてとても美しかった。
初めて嗅ぐ潮の香りに私は胸を躍らせた。

「海ってこんなに素敵な場所だったのですね!」
「ああ。きっと陽子も気に入ってくれると思ってた」
「ありがとうございます…嬉しい…」

初めて着る桜色のワンピースにも胸が躍る。私は素敵なモノを信様から与えられる。
私も彼に何か素敵なモノを贈りたい。でも何がいいのか。

(あ…)

私は、ワンピースの衣嚢(いのう)の中に入っている硝子の桜を思い出し砂浜を探る。海の宝石と呼ばれる擦り硝子。
すると、太陽に照らされて輝いていた物にそっと手を伸ばす。
それは透明の擦り硝子。形も私が持っている桜の硝子によく似ていた。
私はそれを大事そうに握り信様に渡す。

「陽子。コレは…」
「あの硝子の桜のお礼です。信様のようなおまじないはかけられませんが、また離ればなれになってもまた会えるようにと願いを込めました。どうか受け取ってもらえませんか?」
(俺には勿体無い程陽子が可愛過ぎる。この硝子とか家宝物だろ…)
「信様?」
「あ、いや、ありがとう。嬉し過ぎてつい…」

嬉しそうな顔で受け取ってくれた信様に私は微笑む。
すると、信様は私を大事そうに抱きしめて言った。

「陽子。改めて言わせてくれ」
「は、はい」

少し緊張した面持ちで私を見る。改めて私に伝えたい事。それは…。

「……ずっと前から君を見ていた。白鷺の姿で君を見守っていた。誰にも優しく、強い君が俺には本当に勿体無いと思う」
「信様…」
「だから…もし陽子が俺と同じ気持ちだと嬉しいけれど」

信様は一呼吸置いて私に言った。

「俺の妻になってくれないか?」

初めてその言葉を聞いた時の私は半信半疑だった。けれど今は違う。私は心の底からこの人を愛しているから。
もう迷いなんてない。

「はい。私なんかで良ければ」
「あはは。陽子じゃなきゃ駄目だ」

私達はようやく想いが通じ合い結ばれることができた。
ここまで来るまでにいろんなことがあった。けれど、どんな困難も乗り越えてきた。
もし、これからそれ以上の困難が現れても私達ならきっと乗り越えられるはずだ。
神様である信様と人間である私。何かしら弊害がでてくるかもしれない。それでも私は彼の傍にいたい。

「陽子。一つお願いがある」
「なんでしょう?」
「もう俺を呼ぶ時に様は付けなくていいぞ」
「え?」
「信と呼んでくれ。ダメかな?」

私は彼の可愛いお願いの答えを口付けと一緒に告げた。顔を赤る彼に私は告げる。

「わかりました。信」

感激した信様は私を強く抱き締める。
私達は幸せの時間はこれからも続く。
一年後の婚姻の儀に思いを馳せながら私は信を抱きしめ返した。