誰か私を救い出して。
この闇から救い出して。

傍から見たら不幸ではないことはわかる。
でも私は不幸。

恵まれていることはわかってる。
でもどうしても幸福を感じ取れない。


過去に戻りたい。そう願い始めたのはいつからだろうか。

それはたぶん、何度目かもわからない転校を告げられたあの日から。

私の家族は転勤族で、幼少期から何度も色んな場所に引っ越しまくっている。小さい頃はまだ良かった。もちろんせっかくできた友達と別れることは悲しかったけれど未来に絶望なんて微塵も感じていなかった。新たな転校先でも私は友達をたくさん作り、前にいた学校での友達のことなんかすっかり忘れて楽しい思いをしていた。

でも、中学生のあの日、再び引っ越しを告げられた時にはそんな簡単にはいかなかった。今の生活が最高に輝いていてこの日々が卒業まで続くのだと信じて疑わなかったから。

受験して入学した憧れの志望校の制服を纏い、大好きな友達がいて、好きな人もいて、学校に行くことが楽しかった。

一人暮らししたい、親戚の家から通いたい、そんな意見を出そうとしても義務教育中の未熟な子供ができる訳でもなく、ただ従うことしかできなかった。

転校先でも学校には通っていたけど、どうしても転校前の学校を忘れることができなかった。
転校先にも友達はできたけど、どうしても過去と照らし合わせて、あの学校だったらこうだったのにとかあの人がいたらこんなこと話せたのになとか色んなことを思い出してしまい泣きそうになる。

授業中に暇な時。私の大好きな友達、そして私の好きだった人やクラスメイトだった人たちがこの空間にいたら…。それともあの学校に明日戻ることができたら…。きっとたわいもない話で笑いあってそうやって卒業まで過ごすのだろう。そんな絶対に起こりえない楽しいことを想像してしまう。

世界からは自分だけが取り残されていて。
私がこの世界で一番不幸で。
もう限界で。
消えてなくなってしまいたい。
でも消えるほどの勇気は私にはなくて。
偽りの笑顔を浮かべて。
私は無色の日々を過ごす。
心の奥底では病んでいる自分を悲劇のヒロインだと思っていて。
誰かに見つけてほしくて。

物語の主人公になりたい。
物凄いトラウマか何かが私にあって。
それを克服することを手伝ってくれる人達に出逢い、恋に発展する。
そんな物語みたいな人生を送りたい。
でも特に人生に大きな問題はなくて。
でも幸せではなくて。
でも、でも、でも…。
そうやって言い訳ばかり作っていく。

どの場所の自分が本当の自分なのかだろう。どこへ行っても変わらない家族と喋っている時…。それとも新たなクラスメイトたちと話している時…?
転校前の友達と話そうとしてもどんなテンションで、どんな風に喋っていたかなんて忘れてしまう。
どうやったら自分を見つけられるのだろうか。
いつでも過去に縋っていて、昔に戻りたいと思ってしまう。だからまだ今に進めていない、そんな気分になる。

転校して次の年の誕生日…。私は自分の誕生日の日の真夜中の0時になった途端、泣いてしまった。
誕生日は嬉しいはずなのに涙を流したことは自分でも驚いたし、こんなに大人になることが怖いだなんて純粋に自分の年齢が上がるのを喜んでいた頃には想像できただろうか。

ぽっかり空白ができたような年月を振り返ると私は一体何をして、何がしたくて生きていたのだろうか、本当にわからない。もう埋めることができない心の穴を持ったまま身体だけが成長して、その先には一体なにがあるのだろう。
このまま特に幸せだと感じることがないまま大人になっていくことが怖い。これが私の青春だった、そうやって誇れるものがほしい。記憶を持ったまま過去に戻ってできなかったこと、悔いのないように生きてみたい。
そう私は思い続けている。

深夜、ベットの中で暗闇の中に手を伸ばすと考えることがある。あの場所、人、時間のことを思い出しながら、過去の自分に憧れながら、今の自分のつまらない人生に何か光が当たってほしいと願いながら、これからも色のない世界で生きていくしかない。

やっぱり … 。

「いつでも過去に囚われている」

これが私を表すのにはふさわしい。