愛結(あゆ)ちゃんはどうしたいの。」
感情のこもっていない心配の声と言葉。向こうも必死で私を愛そうとしているのは分かる。しかし、ここまで演技が下手だと私も気分が悪い。私は彼女に愛して欲しいと一言も言っていない。勝手に向こうが愛そうとしているだけ。そう思ってこの十何年間生きてきた。私はどちらに人生を賭けたら幸せになれたのだろう。────

まだ私が幼稚園児の頃、父、母、私の三人でマンションに暮らしていた。一見普通の家族に見えるだろう。しかし、私が幼稚園に入園してしばらく経った時、四歳上の兄が交通事故で死んだ。兄が死んでから、両親は悲しみにくれたが、私が居たので悲しみくれてる暇は無く、すぐにいつも通りに戻った。一方私はというと 、相当な兄っ子だった為、兄が居なくなってから精神的異常を起こした。毎晩私は夜泣きした。母は私が泣く度に起き、必死で泣き止ませようとした。父は仕事があるので、夜の睡眠はしっかりととりたいとの事で私の面倒を見なかった。その結果、母は睡眠不足でノイローゼになった。
父が私を見ようとしない事に嫌気がさしたのか、母と父は離婚した。私は両親のどちらにも引き取られず孤児院に入れられた。
私が孤児院に入った時から世話をしてくれてるのが北村和夜(きたむらかずよ)さんという人だった。和夜さんは私の世話をするだけで、愛などとても感じなかった。
私はあの時、無理にでも父や母のどちらかについて行った方が幸せだったのか。それとも、今こういう風に孤児院で暮らしていた方が幸せなのか。

「愛結ちゃん?どうしたいの?」
私は今、病院のベッドの上に居た。いつもの事だった。私にはもう、沢山は時間が無い。嬉しかった。こんな闇を抱えた少女に生きる理由など無い。早く、一秒でも早く、その時が来て欲しかった。
「このまま治療を続けても、結局は意味無いのだから、私はその時が来るのを静かに待ちたいの。」
和夜さんにとってもそっちの方が都合が良いだろう。私と居るのも、きっと和夜さんも嫌気がさしているはずだ。
「そう、分かった。お医者さんに話してくるわね。」
やっぱり。私の事が大切ならそれを否定するはずだ。意味はあるはずよ、とか。
気分が悪い。私は治療に意味が無いからその時が来るのを待ちたい訳では無い。どう足掻いても死ぬ未来しかないのに、今も和夜さんに気を使って笑顔で、最も心配されず、死にたいとアピールする方法を使った自分に嫌気がさしていた。でも、少しは止めて欲しかったな。
「そろそろ、帰るわね。明日も来るわ。」
「分かった。来てくれてありがとう。」
和夜さんが帰ったのを確認すると、私はベッドから起き上がった。
「今日も行きますか。」
私だけが知っているあそこ。気分を変えるにはあそこに行くしかない。