今日は私の27歳の誕生日。
付き合って2年になる悠斗(はると)が「お祝いをしよう」と食事に誘ってくれた。
ホテルの高層階にあるレストラン。しかも壁一面がガラス張りで綺麗な夜景が見渡せる席。
美琴(みこと)、誕生日おめでとう」
悠斗は小さな箱を差し出し「これ、プレゼント。俺と結婚してください」そう言ってダイヤのリングを左手の薬指にはめてくれた。
「嬉しい...ありがとう」
私は驚きと喜びで胸がいっぱいになり、それ以上言葉が出てこなかった。

プロポーズを受けてから半年間はお互いに仕事が忙しく、抱えていた大きなプロジェクトをこなす日々だった。
「仕事も落ち着いてきたし、そろそろ結婚準備しようか」
「そうだね。結婚式はプロポーズしてくれたあのホテルのチャペルがいいな」
「ああ、あそこのチャペル、良い感じだったよな。明日行ってみようか」
「うん!」

プランナーさんのおかげで、結婚式の準備は着々と進んでいる。
「あとは新婚旅行か...そうだ、異世界に行こう!」
「え、異世界?」
「異世界にいるような体験ができる場所があるんだ。旅行の手配は俺に全部任せてくれない?せっかくの異世界体験なんだから、なんにも知らずに迷い込んだ感じのほうが面白いだろ?」
「じゃあお任せするね。でも休暇の申請するから日にちだけは教えてね」
「わかった」

私たちは結婚式の翌週に新婚旅行に出発した。
「楽しみだなぁ、異世界。綺麗な花が咲き誇ってたりするのかな」
「もうすぐ着くよ。あっ、ここでアイマスク付けて。いいよって言うまで外さないでね」
悠斗はトンネルの手前で車を止め、私にアイマスクを渡してきた。このトンネルを抜けたら異世界が広がってるってことかな。

「着いたよ。アイマスク外してみて」
「な、なにここ...」
辺りを見回すと、どこまで続いているかわからない薄暗い世界。灰色の砂で覆われた地面には鬱蒼(うっそう)と生い茂る黒い草木。黒い雲が渦巻く空は血を撒いたような赤。
「美琴が楽しみにしてた異世界だよ!俺はおまえが俺の両親を手にかけたのを見てたんだ。それなのに警察は自殺で処理しやがった」
「なによそれ...私、そんなの知らないよ」
「とぼけるな!俺は絶対におまえを許さない。一生ここで苦しめばいい。最後に教えてやろう。俺の正体は九尾の狐、妖狐だよ」
「ちょっと待って。妖狐ってなに?私をどうする気?」
「おまえはここに置いていってやるよ。せいぜい異世界を楽しめ!」
そう言った瞬間、悠斗は煙に包まれそのまま姿を消した。


「ふん、あんたが妖狐だってことぐらい初めから知ってたわ。私の正体に気づかないなんて愚かなヤツ」
あんたの両親を手にかけたのは私の弟を傷つけたからよ。まだ幼かった弟は、あの時の怪我が原因で今も目を覚まさない。私は復讐をしたまで。
こんなことをして、あんたはこれから心底後悔することになるわ。鬼をナメるんじゃないわよ!