「行ってきます」
そう告げて玄関のドアを開くと水彩画のように透き通った雲ひとつない青空が広がる。
眩しい光に照らされながら駅までの道を歩く。
今日は始業式。今日から私は高校2年生になる。ただ、学年が変わるからと言って何かが変わるかと言われたらほとんど変わらないと思う。
いつもと同じ時間。いつもと同じ道。いつもと同じ人。いつもと同じ電車。いつもと同じ学校。さほど変わらない。
ただ唯一大きな変化と言えば…
「鈴音!おはよっ!」
「あっ奏斗、おはよう」
恋人ができたことぐらいだ。
肩で切りそろえられた髪、良くも悪くもない顔、足も長くもない、身長もそこそこで、ほんとにそこら辺にいるごく普通の平凡な女子高生だ。
そんな平凡な私にできた恋人は運動神経抜群で整った顔で性格もいい…なんて都合のいい彼氏はよくある物語の話で。
といいたいところだが、残念ながらそのハイスペックな彼氏が私にはいる。
どうしてこんなにハイスペックな彼氏が出来ているのか。
それは私も聞きたい。だけど彼から返ってくる答えは
「鈴音のことが好きだからに決まってんじゃん。
 それ以外にどんな理由があるんだよー。」
私にはもったいない彼氏だ。
そんなことを考えながら学校へ向かう。校門の前で澪とすれ違う。
「あっ澪ーおはよー」
「あー鈴音っ!今日ものんきに彼氏と登校かよー!」
「そんなんじゃないし、ただ家が近いだけ」
「なんて言っちゃってー!てかまたあんた夜更かししたでしょ」
「あっそれ俺も思った」
「またドラマ見てて宿題終わらなかったんだもんー」
「朝からまた眠ると呼び出されるよ!」
そんな話をしているとチャイムが鳴る。
「「「やばい…っ!!」」」
ダッシュで新しい教室を確認して入ってセーフ。
奏斗と澪のクラスまで見れなかったと思っていると、奏斗が入ってきた。一緒のクラスみたいだ。今日の学校は始業式とオリエンテーションと軽い自己紹介。
「2年A組になりました。元1年F組の花宮鈴音です。
 1年間よろしくお願いします。」
無事に終えた自己紹介。実は今日テンションが朝から低めだったのはこのためだったりする。下手にテンション上げてここで失敗したくない。でも本当は奏斗と澪と同じクラスになれることを楽しみに待っていた。残念ながら澪は外れたけど奏斗が一緒で嬉しい。

チャイムがなる。
また1日終わった。早かったのか遅かったのか。今日何をしたのかすらあまり記憶に残ってない。また1日無駄にしたなと思いつつ帰宅の準備をする。
「鈴音ー!奏斗ー!!早く帰ろー!!」
奏斗と顔を見合わせる。
「今行くー」と返事をして教室を出た。
帰り道、まだ明るい青空の下、桜並木を見ながら立ち止まりふと考える。

あと何回、何日この道を通れるんだろうか。

そんな時風が吹いて花びらが雨のように降り注いだ。
そんな中で君を見つけた。
なぜか君から目が離せなかった。
花びらの中に見えた桜のような君から。
ぽとんと音がした。
まるで1滴の雫が音を立てるように。
風が過ぎ去る。花びらは地面へと落ちていく。
君と目が合う。
一瞬だった。でもその一瞬で何かが変わったようなきがした。
「鈴音ーどうしたの??」
はっと気づく。
「なんでもないよ。」
そういいながら駆け足で澪と奏斗の元へ行く。

4月17日
私の残りのタイムリミットはあとどれくらいだろう。

「鈴音おはよぉ〜」
今日もまた3人で登校だ。
あっ。
教室に入ると1人の男の子に目が止まった。
(昨日の子だ。同じクラスだったんだ。)
そう思いながらも目が離せない。
ふと彼がこっちを向いた。
でもすぐに目は離され私も席に着いた。

「今日はクラスの中を深めてもらうためにも早いが席替えするぞー。てことでどんどんくじ引けー」
いやいくらなんでも早すぎだろ、と先生にツッコミを入れながらくじを引く。
あの彼の隣だった。運命なのか分からないがよくある漫画の展開ってやつだ。

彼は風宮桜音と言うらしい。
私が初めてあった時の感情そのものが彼だった。
「これなんて読むの?」
「かぜみやおと。女の子みたいな名前だろ?でも案外気に入ってるんだぜ」
「そうなんだ。でもいい名前だよ」
桜音はにっかりと歯を見せて笑った。
桜のように穏やかで明るい笑顔で。でもどこか切なくて。
どことなく不思議な気がした。

4月18日
桜音と隣の席になる。なぜか同じ境遇な気がした。気のせいかな。