8
俺たち二人の口喧嘩で雰囲気の悪くなったチーム未奈は、次第に押され始めた。羽村の動きが完全に止まり、実質、一人少なくなったせいもあって、相手チームにいいようにやられていた。
俺たちのチームの8番が、やや中央寄りの位置でボールをキープする。俺は、「ヘイ!」と叫んで近づき、パスを受けて前を向く。
「来い、ホッシー!」
極限の早口で俺を呼んだ佐々が爆速ダッシュで引いてきた。俺は佐々にボールを出す。
が俺のパスは、完全なゴロにはならない。佐々はトラップをミスし、敵にボールが渡った。
蹴らせるまいと詰めた未奈ちゃんが外に出す。やっぱり守備をきちんとしてくれる。
最後は敵の足に当たりスロー・インになった。
「ミスっといてわりいんだけどよー、さっきみたいな場面のパスって転がすべきなんじゃねえか? いや、俺、シロウトだし、間違ってたら謝っけどさー」
真顔の佐々が、淡々と指摘した。
正論を説かれた俺は、佐々を真剣に見返して口を開く。
「まーじで、申し訳ない。次はちゃんとやるわー」
俺の謝罪を聞き終えた8番がスロー・インをしようとすると、決然とした顔の未奈ちゃんが、深く息を吸い込んだ。
「この試合、まーったく声が出てないわよー! あんたたち、まともなサッカーもできない、論外ランク外野郎の集まりなんだからさー! せーめーて、盛り上げていけっつーのー!」
未奈ちゃんは、よく通る大音量で吠えた。グラウンドに、一瞬の静寂が訪れる。
言い回しこそ辛辣だったが、さっきの未奈ちゃんの罵声はエネルギーに満ちていた。これで燃えない奴は、サッカーを辞めるべきである。
「ワラジモーン! ラインが低いせいで、バイタル・エリアが、すっかすかだっつーの! あんたのノロマさは、今まででじゅーぶんわかってるけどさー! もうちょい上げないと、どうにもならんでしょーがー!」
「もう、仰る通りっすー! 以後はがんがん上げていくんで、見ててくださーい!」
的確な指示に、俺は、ソッコーで同調した。未奈ちゃんは返事をせずに、8番に注目し始めた。
スロー・インを受けた未奈ちゃんが、ワン・タッチで前を向いた。
「素人チャラ男!」
「おう!」
高速パスを佐々が滑らかにトラップした。ちらりと後ろを見た佐々は、背後の7番を目掛けてボールを転がした。7番は、身体でフェイントを掛けてからパスを受ける。
またぎフェイントでコースを空けた7番はマーカーを振り切らないままシュート。
枠に飛んだが、キーパーの右手を掠めた。そのままラインを割る。チーム未奈の、左からのコーナー・キックだ。
ゴール前に入った俺は、キッカーの未奈ちゃんの挙動を注視し始めた。
足で地面を整備した未奈ちゃんはボールを置き、おもむろに何歩か下がった。ルーティンなのか、頭の後ろで両手を組んで、肘を伸ばすストレッチのような動きを始める。
研ぎ澄まされた表情に見とれた俺だったが、慌てて雑念を振り払い、集中を高める。
未奈ちゃんが助走を取り蹴った。速いボールが上がった。アウト・サイドで蹴られたボールは、ゴールへ迫る方向に曲がっていく。
ニアに走り込んだ俺は、ダイビング・ヘッドをかました。タイミング、ドンピシャ。
ワン・バウンドしたボールがネットを揺らして、二対一。俺は自陣にダッシュしながら、全力ジャンプとともにガッツ・ポーズをする。誰も乗って来ないが、ぶっちゃけどうでもいい。
やっぱり、未奈ちゃんはサイコーだ! 毒舌はともかく、俺らの動きをマジでよく見てくれている。
俺たち二人の口喧嘩で雰囲気の悪くなったチーム未奈は、次第に押され始めた。羽村の動きが完全に止まり、実質、一人少なくなったせいもあって、相手チームにいいようにやられていた。
俺たちのチームの8番が、やや中央寄りの位置でボールをキープする。俺は、「ヘイ!」と叫んで近づき、パスを受けて前を向く。
「来い、ホッシー!」
極限の早口で俺を呼んだ佐々が爆速ダッシュで引いてきた。俺は佐々にボールを出す。
が俺のパスは、完全なゴロにはならない。佐々はトラップをミスし、敵にボールが渡った。
蹴らせるまいと詰めた未奈ちゃんが外に出す。やっぱり守備をきちんとしてくれる。
最後は敵の足に当たりスロー・インになった。
「ミスっといてわりいんだけどよー、さっきみたいな場面のパスって転がすべきなんじゃねえか? いや、俺、シロウトだし、間違ってたら謝っけどさー」
真顔の佐々が、淡々と指摘した。
正論を説かれた俺は、佐々を真剣に見返して口を開く。
「まーじで、申し訳ない。次はちゃんとやるわー」
俺の謝罪を聞き終えた8番がスロー・インをしようとすると、決然とした顔の未奈ちゃんが、深く息を吸い込んだ。
「この試合、まーったく声が出てないわよー! あんたたち、まともなサッカーもできない、論外ランク外野郎の集まりなんだからさー! せーめーて、盛り上げていけっつーのー!」
未奈ちゃんは、よく通る大音量で吠えた。グラウンドに、一瞬の静寂が訪れる。
言い回しこそ辛辣だったが、さっきの未奈ちゃんの罵声はエネルギーに満ちていた。これで燃えない奴は、サッカーを辞めるべきである。
「ワラジモーン! ラインが低いせいで、バイタル・エリアが、すっかすかだっつーの! あんたのノロマさは、今まででじゅーぶんわかってるけどさー! もうちょい上げないと、どうにもならんでしょーがー!」
「もう、仰る通りっすー! 以後はがんがん上げていくんで、見ててくださーい!」
的確な指示に、俺は、ソッコーで同調した。未奈ちゃんは返事をせずに、8番に注目し始めた。
スロー・インを受けた未奈ちゃんが、ワン・タッチで前を向いた。
「素人チャラ男!」
「おう!」
高速パスを佐々が滑らかにトラップした。ちらりと後ろを見た佐々は、背後の7番を目掛けてボールを転がした。7番は、身体でフェイントを掛けてからパスを受ける。
またぎフェイントでコースを空けた7番はマーカーを振り切らないままシュート。
枠に飛んだが、キーパーの右手を掠めた。そのままラインを割る。チーム未奈の、左からのコーナー・キックだ。
ゴール前に入った俺は、キッカーの未奈ちゃんの挙動を注視し始めた。
足で地面を整備した未奈ちゃんはボールを置き、おもむろに何歩か下がった。ルーティンなのか、頭の後ろで両手を組んで、肘を伸ばすストレッチのような動きを始める。
研ぎ澄まされた表情に見とれた俺だったが、慌てて雑念を振り払い、集中を高める。
未奈ちゃんが助走を取り蹴った。速いボールが上がった。アウト・サイドで蹴られたボールは、ゴールへ迫る方向に曲がっていく。
ニアに走り込んだ俺は、ダイビング・ヘッドをかました。タイミング、ドンピシャ。
ワン・バウンドしたボールがネットを揺らして、二対一。俺は自陣にダッシュしながら、全力ジャンプとともにガッツ・ポーズをする。誰も乗って来ないが、ぶっちゃけどうでもいい。
やっぱり、未奈ちゃんはサイコーだ! 毒舌はともかく、俺らの動きをマジでよく見てくれている。