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 その後も未奈ちゃんは懸命にボールに絡み続けた。だけど明らかに普段の調子ではなかった。
 未奈ちゃんは本来、サイドを打ち破ってクロスを上げる古典的なタイプのウイングである。にも拘わらず中に切り込んで撃ってみたり、三点目のような成功率の低い角度のないシュートを放ったりと、らしくないプレーばかりだった。
 十五分が経過し、未奈ちゃんにボールが渡った。俺は半身になって未奈ちゃんと向かい合う。
「未奈ちゃーん! ちょっと、周りが見えてないよー! 一回、落ち着こー!」
 必死かつ悲痛な、あおいちゃんの助言が飛んだ。
 はぁ、はぁ、と、未奈ちゃんの荒い呼吸音が聞こえる。表情は苦しげで瞳には生気がなく、泣き出しそうですらあった。
 それでも未奈ちゃんはきっと俺を見据え、右、左のダブルタッチ。狙いはまたしても中。だけどキレがない。
 先んじた俺は、身体で未奈ちゃんを抑えてからボールを確保。外に反転してクリアにかかる。
 が、未奈ちゃんの左足が伸びてきた。完全に、俺の足を引っ掛けるコース。
 避けられず俺は、右半身から倒れ込む。
 ピピーッ!
 審判が笛を鳴らした。胸ポケットから出るカードの色は、黄色。
 スライディング後の姿勢のままの未奈ちゃんは、ガツン! 握った拳を地面に叩きつけた。目の辺りから落ちたように見えた雫は、俺の錯覚だろうか。
 未奈ちゃんの交代を告げる声が聞こえ、俺は女子Aの監督に視線を遣った。だが注意は他の人物に向かう。
 女子Aの監督の少し後ろ、俺たちの荷物置き場で、皇樹秀が別人かと思えるほど凍え切った眼差しを未奈ちゃんに送っていた。