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 二本目の後のミーティングでは、コーチから、一点のビハインドではあるが、チームは上手く回っているので、メンバー・チェンジはしない旨が告げられた。高ぶる気持ちを、むりやり抑え付けているような話し方だった。
 休憩時間の終了が近くなり、俺がコートに戻ろうとすると、制服姿の皇樹が声を掛けてきた。
 皇樹は二本目の終わり際から観戦していたようで、おまえはすんげえ、とにかくなんか頭抜けてる、と熱い口調で語った。両肩を強く掴みながら俺を見つめる目は、どこまでもまっすぐだった。
 皇樹にここからは無失点で抑えると豪語した俺は、コートに入った。
 高らかに笛が鳴り、女子Aのキック・オフで三本目が開始された。女子Aも、選手交代はなかった。
 未奈ちゃんがすぐさま、左サイドを駆け上がってきた。マークに付いた俺は、未奈ちゃんの瞳を覗き込んだ。同じステージにいる者への共感を籠めて。
 しかし俺は微かな違和感を覚える。ボールを目で追う未奈ちゃんは、集中はしているようだった。だけど面持ちは固く、そこはかとない焦燥を感じさせた。
 女子Aは、遅攻(ゆっくりとボールを回して敵陣の隙を見計らいながらの攻撃)を仕掛けてきた。ゆっくりと回ったパスが、ペナルティ・エリアのちょうど角にいた未奈ちゃんの足元に収まる。
 わずかに溜めを作った未奈ちゃんは、右に身体を揺らしてから左のアウトで外に出す。お得意の縦への突破からのクロスか? 当たりを付けた俺は、右に重心を傾けた。
 だが未奈ちゃんは、左のインで切り替えした。そのまま右足を使って、ゴールに向かってドリブルを始める。
 やや意表を突かれたが、まだまだ従いていける距離だった。力任せに方向転換した俺は、未奈ちゃんに身体を入れる。利き足の左では撃たせたくなかった。
 俺に寄せられた未奈ちゃんは、右足を振り抜いた。ボールがゴールの右隅に飛ぶが勢いはなかった。五十嵐さんが難なく頭上でキャッチする。
「ナイス・チャレンジ! 大丈夫、大丈夫。枠には飛んでるよー。その調子で、どんどん撃っていこー!」
 あおいちゃんの、無邪気で愛に溢れた声援が飛んだ。だが未奈ちゃんは答えもせずに、苛立っているかのようにぎりっと唇を引き結んだ。