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 アップは、一時間弱で終了した。最後のダッシュの後、柳沼コーチの話を聞いた俺たちは、グラウンドに入った。センター・サークルでの挨拶を終えて、それぞれのポジションに散らばる。
 男子Cは4―4―2で、キーパーが五十嵐さん、右サイド・バックが沖原、右センター・バックが俺、トップが釜本さんと佐々である。
 佐々は、今日が初のスタメンだった。身体能力はともかく、総合的にはこれまで出ていた二年生に劣ってるから実験の意味合いが強いけど。
 女子Aのフォーメーションは、4―3―3。未奈ちゃんは左ウイングで、あおいちゃんはセンター・バックの左だった。
 女子Aのボールでキック・オフ。戻されたボールはライン際の未奈ちゃんへと渡った。
 沖原のスピードを考慮した俺は、「寄せすぎんなー」と、鋭く指示を飛ばした。
 沖原は、「おう」と平たい声で答えて、未奈ちゃんと距離を取る。
 だが事態は、俺の予想の上を行った。
 凪いだ表情の未奈ちゃんは、大きく助走を取ってインフロントでボールを蹴り込んだ。相手を抜き切らずに中に上げるアーリー・クロス。俺も足を出す。だが届かない。
 ボールはゴール前に飛んだ。曲がってディフェンスの足を躱す。敵の右ウイングの14番ボレーを放つ。
 シュートは完璧なコースに飛んだ。五十嵐さんは一歩も動けない。ゴール・ネットが軽い音を立てて揺れる。
 身体が固まる。試合開始、ワン・プレー目でまさかの失点。〇対一。
 男子Cの誰もが呆然とする中、満足げな未奈ちゃんは、小走りで自陣に戻っていく。未奈ちゃんと逆のサイドでは、喜色満面の14番を数人が囲んで並走していた。
 さっきのクロスは、誰も触れない場所を的確に突いていた。針の穴を通すような精度に加えて、四十m近い飛距離。完全無欠、お手本のようなキックだった。
 今までの努力が水の泡となったように感じ、俺の目の前は暗くなる。過去最悪の試合の予感がじわじわと広がり始めていた。