16
五月三日、日曜。女子Aとの練習試合の日。昼食を摂り終えた俺は、早足で部室に向かった。
部室では、十人ほどの部員が喋りながら着替えていた。俺はすぐに荷物を置き着替えを始めた。
その後、他の部員とともに、少し距離のある女子Aの芝生のグラウンドに赴いた。既に男女の部員が何人か来ていて、ロング・キックやストレッチをしていた。
グラウンドのすぐ外には屋外テント(運動会の放送席とかで使われるやつね)があり、下には男子の荷物が置いてあった。鞄を近くに置いた俺は、コートの隅でストレッチを始めた。
身体の後ろで腕を伸ばしていると、「そこの人ー、……って、あんたか」背後から露骨に嫌そうな声が聞こえて、振り返る。
転がったボールが俺に向かってきていて、ボールの向こうでは未奈ちゃんとあおいちゃんが俺を見ていた。
俺は腕を組んだまま、近づいてきていた未奈ちゃんに蹴り返す。
「ありがと」と、ぼそっと呟いた未奈ちゃんはボールをトラップして反転した。
「いよいよだね、未奈ちゃん。今日は、十、ゼロで完勝しちゃうよ。んでもって未奈ちゃんの心も、十、ゼロで俺に傾けてあげるからね」
「……ちょ、またそんな恥ずかしい台詞をぺらぺらと。困るっつってんでしょ。うまいこと言おうとして失敗してるし。
で何だって? 十、ゼロ? あんた、うちと男子Bとの結果、知ってんの?」
向き直った未奈ちゃんは、軽く引いた感じのお顔だった。
「もちのろんっすよ。三対三の引き分けでしょ? それがどうしたの?」
「……知っててそんだけ、大言壮語ができんのね。ま、あんたらしいっちゃあんたらしいか」
会話の終わりを感じた俺は、身体の向きを戻してストレッチを再開したが、
「相手がどんな奴でも、私は負けるわけにはいかないのよ」
未奈ちゃんの、自分に言い聞かせるような決然とした声が聞こえて、振り向く。だけど未奈ちゃんは、既にキックのモーションに入っていた。
五月三日、日曜。女子Aとの練習試合の日。昼食を摂り終えた俺は、早足で部室に向かった。
部室では、十人ほどの部員が喋りながら着替えていた。俺はすぐに荷物を置き着替えを始めた。
その後、他の部員とともに、少し距離のある女子Aの芝生のグラウンドに赴いた。既に男女の部員が何人か来ていて、ロング・キックやストレッチをしていた。
グラウンドのすぐ外には屋外テント(運動会の放送席とかで使われるやつね)があり、下には男子の荷物が置いてあった。鞄を近くに置いた俺は、コートの隅でストレッチを始めた。
身体の後ろで腕を伸ばしていると、「そこの人ー、……って、あんたか」背後から露骨に嫌そうな声が聞こえて、振り返る。
転がったボールが俺に向かってきていて、ボールの向こうでは未奈ちゃんとあおいちゃんが俺を見ていた。
俺は腕を組んだまま、近づいてきていた未奈ちゃんに蹴り返す。
「ありがと」と、ぼそっと呟いた未奈ちゃんはボールをトラップして反転した。
「いよいよだね、未奈ちゃん。今日は、十、ゼロで完勝しちゃうよ。んでもって未奈ちゃんの心も、十、ゼロで俺に傾けてあげるからね」
「……ちょ、またそんな恥ずかしい台詞をぺらぺらと。困るっつってんでしょ。うまいこと言おうとして失敗してるし。
で何だって? 十、ゼロ? あんた、うちと男子Bとの結果、知ってんの?」
向き直った未奈ちゃんは、軽く引いた感じのお顔だった。
「もちのろんっすよ。三対三の引き分けでしょ? それがどうしたの?」
「……知っててそんだけ、大言壮語ができんのね。ま、あんたらしいっちゃあんたらしいか」
会話の終わりを感じた俺は、身体の向きを戻してストレッチを再開したが、
「相手がどんな奴でも、私は負けるわけにはいかないのよ」
未奈ちゃんの、自分に言い聞かせるような決然とした声が聞こえて、振り向く。だけど未奈ちゃんは、既にキックのモーションに入っていた。