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 チーム未奈とチーム諏訪のメンバーは、各々のポジションに着いた。
 キーパーを除けば最後方の俺の位置からは、紅一点の未奈ちゃんが目立って、もとい華やいで、もとい光り輝いて見える。というか俺には未奈ちゃんしか見えない。
 冗談はさておき、俺のポジションはリベロ、ディフェンスの纏め役だ。ただ最近では、キーパーがリベロ的な役割をしてる事が多い。キーパーを前めのポジションを取らせて、数的優位を作るってわけだ。
 俺たちのチームはフォワードは三人だ。左に未奈ちゃん、右に羽村という、長髪をヘアバンドで留めた選手、センターには、アップを一緒にした佐々が入っていた。
 さっきの自己紹介で知ったけど、佐々はやはりド素人だった。
 未経験で竜神サッカー部に入ろうなんて見上げた根性である。いや、ダメってわけじゃあないんだけど。
 ホイッスルが鳴り、キック・オフ。数人を経由したボールは相手のセンター・バックの2番に渡り、未奈ちゃんが全速で追う。
「よこせ!」
 タッチ・ラインぎりぎりに位置取った諏訪が、低い声で叫んだ。2番は諏訪にパスを出した。
 諏訪は助走を取り、縦に大きく蹴り出した。ここしかない場所に落ちたボールに、相手の9番が走り込む。
 左サイド・バックの5番がフォローできないと判断した俺は、相手9番に詰める。
 ゴール・ライン際まで抉られたが、クロス(ゴール前に蹴り込むこと)のボールは伸ばした足で阻止。相手のコーナー・キックだ。
「よーし、お前ら。ここ一本、集中な。声を掛け合って、全員をしっかり見てこーぜ! 侵略すること火の如し。動かざること山の如し。マーク相手にへばりつくことスッポンの如しでいこうやー! あ、いやいやマークするんだから動かざるじゃあだめか。ガンガン動いていこうぜー」
 俺の台詞の直後、コーナー・キックが蹴られた。ふわっと飛んだボールを、俺はヘディングでクリア。味方6番へのパスとなった。
 ターンした6番は、引いてきていた未奈ちゃんにグラウンダーのボールを出した。
 未奈ちゃんのファースト・タッチ。だが、諏訪も張り付いてきている。
 未奈ちゃんは右に視線を遣った。サイドへのパスか?
 俺が考えた瞬間、未奈ちゃんは、左足で右斜め後ろにボールの軌道を変えた。
 諏訪の股を抜き、未奈ちゃんがドリブル開始。諏訪も追うけど差が縮まらない。速い。
 相手2番がフォローに来るが、完全に詰められる前にチップ・キック。佐々がそのパスを追う。
 快足を発揮した佐々は相手よりも先にボールに触れた。だが、ドリブルが直線過ぎたため、飛び出したキーパーにキャッチされた。
「ねー、あんたさー。私に恨みでもあんのー? 今のパスを決めれなくて、なーにーを決めれるってのよ。やる気がないなら、自己申告でDに行きゃいーのよ」
 未奈ちゃんの間延びした悪態に、佐々はわずかに顔を歪める。ド素人相手でも未奈ちゃんは容赦がない。
 けどやっぱり未奈ちゃんは凄い。宣言通り一発目でかましてくれた。テクニックだけなら竜神でも最高ランクじゃないだろうか。
 相手キーパーがパント・キックを行い、俺は落下点を読みながら考える。
 マイ・スウィート・ハニー、未奈ちゃんの実力は本物だ。従いていけりゃあ、三戦全勝だって夢じゃない。