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 佐々との初練習の四日後、俺は、楓ちゃんと二人、水池家の近くの公園へと赴いた。ミニ・ゲームで話が出て二日前に詳細が決まった、女子Aと男子Cの練習試合まで週二で楓ちゃんの練習台になるという、未奈ちゃんとの約束を果たすためだった。
 公園の広さは、三十m×三十mくらいである。俺たちがいる土のグラウンドが、総面積の八割ほどを占めていて、雑草が生い茂る残りの二割には、滑り台、砂場、ブランコ、屋根の付いたベンチなどが押し込められていた。
 グラウンドを囲む電灯は一般的な公園のものだけど、サッカーの練習に充分な明るさだった。
 長袖の青いジャージを着た楓ちゃんからパスが来た。俺はダイレクトで返し、小さく息を吐いて集中を高める。
 楓ちゃんがすっと足元に収めて、一対一の開始。
 楓ちゃんはちょんと、俺に渡すかのようにボールを前に出した。俺は即座に反応。左足を前に出して、ボールを奪おうとする。
 しかし楓ちゃんは、すっと右足の裏でボールを引いた。そのまま、右、左のダブル・タッチで逆に出す。イニエスタ並の滑らかさ。
 スライディングが不発に終わって、転けた状態の俺は何の対応もできない。
 俺を置き去りにしてドリブルを続けた楓ちゃんは、五歩ほど行ってから戻ってきた。
 またしても完敗。練習を始めて三十分くらい経ったけど、一回も勝てていなかった。さすがは、世界が注目するスーパー小学生である。
「うふふ、あたしったらまーた勝っちゃった。星芝さん、もうあたしにメロメロだぁ。あとさっきのフェイントは今日で二回目だよ? やっぱわかっててもそこそこ引っ掛かっちゃう?」
 二歩ほど離れた位置で、楓ちゃんは意欲たっぷりって感じの声色で話し掛けてきた。俺を見下げる笑顔にも、子供らしい元気に満ちている。
 けちょんけちょんで我ながらテンションのおかしい俺は、楓ちゃんに合わせて思いっきり破顔する。
「おう、引っ掛かる引っ掛かる。大縄跳びの端の人ぐらい引っ掛かるよ。楓ちゃんはもはや、引っ掛けマエストロと言っても過言じゃあないね」
 楓ちゃんは、少し笑顔を小さくした。
「……うんうん、そうだね。星芝さんも、もうお疲れさんだ。八時になったし、もう帰ろうね」と、気遣わしげに呟いた。
 ん? 俺さっき、心配されるような発言したかな? 頭はハイになっちゃあいるが、喋るほうには影響は出してないつもりなんだけど。