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 試合終了後、俺たちCの三人はコートの中央で、水池姉妹と向かい合った。
 集まってしばらく、無言の時が続く。耐え兼ねた俺が沈黙を破ろうとすると、身体の前で両手を組んだ未奈ちゃんがゆっくりと口を開いた。
「五対〇。うん。ま、妥当な結果よね。コートが狭いから足元の差がモロに出るし、そっちはド素人が一人いるしね」
 鈴の音のような声で淡々と告げた未奈ちゃんの表情は、怒っているようにも、慰めているようにも見えた。動きを止めた俺たちは、何も言い返せない。
「振り分け試験でも話したけど、私はあんたたちがどこで何をしようがどうでも良いの。自分の無力さに絶望して退部するんなら、勝手にどーぞ」
「無力さに絶望? 面白い冗談じゃんか。そんなのするわけないでしょ。次は、俺たちのコールド勝ちだっつーの」
 目を見開いた俺が負けじと喚くと、「色呆け」と、未奈ちゃんが落ち着いた声で重ねてきた。
「約束通り、あんたには、私の言うことを聞いてもらうわよ」
「お、おう。当然っすよ。武士に二言はないからね」
 未奈ちゃんを見返す俺は、ややビビリながら答えた。
「あんたはこれから一ヶ月、楓の練習台になるの。なーんかあんただけ全然へこんでないみたいだし、今度こそ、楓との才能の差に潰されちゃいなさい」
 驚いた俺が楓ちゃんを見ると、楓ちゃんは「よろしくお願いします! 星芝お兄ちゃん!」と、殊勝な顔付きでぺこっと頭を下げた。
「詳細が決まったら教えるから。それまであんたは、退部届の理由の欄に何を書くかでも考えとけば? んじゃ、今日はこれで解散。次に使う人がいるし片付けは要らないから。帰るわよ、楓」
 あっさりと言い捨てるなり、未奈ちゃんは振り返って歩き始めた。「うん」と素直に答えた楓ちゃんが、てくてくと従いていく。
 コートの出口の扉に手を掛けた未奈ちゃんは、ゆっくりと首だけをこちらに向けた。面持ちは依然として、冷めている。
「そうそう、五月の頭くらいに、私たち、男子Cと練習試合をするんだってさ。時間の無駄だって私は反対したんだけどね。あ、辞めるあんたたちに話してもしゃーないか」
 呟いた未奈ちゃんは、今度こそ、コートから出て行った。