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 奮闘も空しく、〇対四。力の差は歴然ってやつだ。
 だけど、未奈ちゃんのキュートさの高らかな公言と、チーム・メイトへのイカした鼓舞を完遂した俺のテンションは上がりっぱなし。
 沖原からのボールを受けた俺は、半身で対峙する未奈ちゃんに注意を向ける。
 ほんっと、どこにボールを遣っても取られそう。一個も抜けるイメージが湧かんわ。でももし抜けたら、気分爽快だよなぁ。
 意思を固めた俺は、緩ーくボールをまたぎ始める。左、右、左。未奈ちゃんは、動きを止めたまま。
 隙を感じた俺は、左足でボールを右に遣った。間髪を入れずに右足で前に出す。
 抜けた! 思った瞬間、未奈ちゃんは、反転。両手を広げて、小さな身体を俺にぶつける。
 さすがに力じゃあ負けないけど、俺の動きは一瞬止まる。誰にも触れられなかったボールは、外に出た。
「くっそ。もーちょいなのになぁー! 動きとろいよ! 俺!」
 俺は、足をぱんっと叩いて叫んだ。耳に届いた自分の声は、思った以上に楽しげに弾んでいた。
 未奈ちゃんは少しの間、俺を不思議そうに見つめていた。だけど、間もなくボールをコートに入れる。
 楓ちゃんがぴたりと足元に止めて、演舞のようなパス回しが再開される。
 コートの中央近く、沖原を抜いた楓ちゃんから縦パスが転がる。走り込んだ未奈ちゃんは、左の踵で楓ちゃんに返す。
 楓ちゃんは軽く蹴り真似を入れてから、擦るようなアウトサイド・キックでボールを曲げる。
 左サイドを走る未奈ちゃんに追走。が、俺より速い。先に追いついて、シュート・モーションに入る。
 俺は上半身を倒して必死に足を伸ばした。しかし、未奈ちゃんの蹴ったボールを掠めるだけ。ボールはコーンの間を通過して、〇対五。試合、終了。