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 一人でランニングとストレッチを済ませた俺は、ボールを脇に抱えて、辺りを見回す。誰かとアップがしたかった。
「そこのあんた、相手がいない系?」
 低めの声が後ろから聞こえて振り返ると、鋭い目つきの選手が、俺を睨むように見ていた。
 ワックスで整えたであろう、肩にまで掛かる長い茶髪を右手で弄っている。
 首から上はまんまチャラ男だけど、筋肉質な体付きはアスリートのものだった。
「良かったら、俺とやんねえ? あ、俺は佐々隼人(はやと)。たまに歴史オタに突っ込まれっけど、佐々成政は関係ねえから。ま、別に悪い気はしねえんだけどよ」
「サッサナリマサは知らんが、俺は星芝。星芝桔平。手で投げたボールをいろんなとこを使って相手に返すアップでいいか?」
「いいぜ。あ、でもよ。俺に先、投げさせてくれ。お前がやってる項目を、俺も真似するからよ」
「了解。んじゃ、頼む」
 静かな会話の後に、基礎練習が始まった。どういうわけか、佐々はあまり上手でなかった。
 基礎練習後は何種類かの練習を経て、俺たちは再び円になった。
 少し前に出た森先生が、手元の紙に目を落とす。
「今から、各チームの代表にチーム分けを記した紙を配る。なお、チーム分けは、学校でのクラス分けをベースにしている。新入生は百九人なので、十チームを作ると一人が足りないが、これについては」
 校舎のほうにちらりと目を遣った先生は、「ああ、ちょうど来たか」と呟いた。
 釣られて先生と同じ方向に視線を移した俺は、後光射す天孫の降臨を目にした。
 白のスポーツ・バッグを肩に掛けた未奈ちゃんが、こっちに向かって歩いてきていた。女子部の練習後なのか、赤の上着と白のゲーム・パンツを着ていた。愛らしい小さな顔は、きりりと引き締まっている。
 俺の脳裏に、中三の時に見たU17女子日本代表の試合が蘇る。
 左ウイングで出ていた未奈ちゃんは、他の誰よりも声を出して、味方を鼓舞していた。
 未奈ちゃんの颯爽たる姿にフォール・イン・ラブした俺は、未奈ちゃんのいる竜神中学の高等部、竜神高校への進学を決めたのだった。
「本人の希望で、女子部の新一年生、水池を加えて調整する。では、紙を取りに来い。槌谷、小沢……」
 先生が、名前を呼び上げ始めた。俺は、未奈ちゃんの挙動を目の端で追いながら、算段を立て始める。
 振り分け試験でめちゃめちゃ目立って気を引いて、あっという間に結ばれる。やっべ。シェークスピアも嫉妬するような、完璧なシナリオじゃね?