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「右が空いてんぞー。もうちょい全体を見てプレーしてこうぜー」
 ゴール前に陣取る皇樹が大声で指示を飛ばす。指示を受けた男子生徒は、ぎこちない足裁きで右にパスを出した。
 試合開始からずっと、皇樹はキーパーをしていた。自分が出しゃばると、クラスの懇親を深めるという目的が達成できないとよくわかっている様子である。
 俺も未奈ちゃんも皇樹と同じスタンスで、後ろからの配球メインだった。
 両チームの女子生徒がボールに詰め寄った。握手ができる程までに近づいた双方の間をがちゃがちゃとボールが行き交い、ラインを割って外に出た。
「俺らに楽しませたくて裏方に徹してくれてるのはわかるけどさー。そろそろ皇樹のかっこいいところ、俺は見たいぞー。なあみんなー」
 皇樹と同チームのクラスのムードメーカーが、愉快げな口調で声を張り上げた。
「うんうん、そうよね」「良いこと言うじゃん」「さんせーい」と女子を中心に同意の声が上がる。
 一瞬迷った様子の皇樹だったが、「そんじゃあまあ、そこまで言うならいっちょ頑張ってみっかな」と気易い口振りで応じた。
 キックインのボールが皇樹に渡った。皇樹は右で止めて、ボールを足裏で保持した。
「桔平ー、勝負だー! お前が全国の猛者が集う竜神で活躍したいっつーなら、見事この俺を止めてみろー」
 芝居がかった調子で皇樹が叫んだ。幼子のように輝く瞳からは、サッカーへの深い愛情が感じられる。
 俺は即座に半身になり、皇樹を注視し始めた。
 皇樹は細かいドリブルを開始。俺の少し前に至ると、左足でボールを跨ぐ。俺は釣られない。
 皇樹、右足のアウトで、俺の左後方にボールを出した。自分は逆から突破。
 俺は皇樹に遅れてボールを追うが、先にボールに触った皇樹はドリブルを続けて、右足でシュート。
 俺のスライディングは届かない。ゴール右隅に決まる。
「うし完勝! まだまだ修行が足りねえな、桔平!」
 ふざけた語調で皇樹が言った。次の瞬間、「色呆け!」と、ゴールからボールを取った未奈ちゃんが叫んだ。
 意図を即座に読み取った俺は全力ダッシュ。未奈ちゃんからの浮き球が前方でツー・バウンドし、俺はゴール手前で追いついた。
「あっ、せけえぞ桔平!」後方から皇樹の不満げな声が飛んでくるが、気にしない。素人のクラスメイトをすっと躱し、パスを出す。
 同じチームの三つ編み女子がトラップ。こつんと爪先で蹴ると、ボールはゴールへと吸い込まれていった。
 やっぱ今の俺じゃあ、ひっくり返っても皇樹はどうにもならないね。でも俺はこれからだ。それはさておき。
「未奈ちゃんナイスパス! 振り分け試験以来のゴールデンタッグ結成だね! いやー、くじ引きで別チームになったから一時はどうなることかと思ったけど、無理言って代わってもらって良かったよ!」
 ……ってこれ言っちゃああダメな奴だった。またやらかした、かな?