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「よぉ桔平、いよいよ今日から俺らも花の高校生だ。青春というの大きな嵐に全身で突っ込んでいくってわけだ。これからいろいろあんだろうが、一緒に頑張ってこーぜ」
 十二組の教室に入るや否や、先に着いていた皇樹が話しかけてきた。表情は、同性にも異性にも好かれるだろう2.5枚目スマイルである。
「当然っすよ。なんやかんや頑張って、忘れたくても忘れられない濃厚な高校生活にしてやる所存だよ」
 情感をたっぷり込めて返答すると、皇樹は顔の横に右手を据えた。俺が真似すると、皇樹は右手を近づけてきた。
 パシン! 俺たちはハイタッチを交わした。手を下ろした俺は、さらに続けようとする。
 しかしすうっと、騒がしかった教室が瞬く間に静まり返った。クラス全員の視線が俺の背後、教室の入り口へと注がれる。
 俺は振り向いた。未奈ちゃんが立っていた。何気ない表情で教室を見渡している。
 パシャ! カメラのシャッター音がした。最後列の生徒が、スマホを未奈ちゃんに向けていた。
 すると次々と、十一組の生徒たちはスマホを未奈ちゃんに向けた。シャッターの音が数秒間隔で生まれ、教室は何かの撮影会場のようになる。
「ちょっ、ちょっとあんたたち。やめなさいっての。私にもプライバシーってもんがあんでしょうよ」
 未奈ちゃんは困惑しきった様子である。
 愛する人の苦境を見逃せない俺は、小さく息を吸い込んだ。
「みんなやめよーぜ。未奈ちゃん困ってんじゃんか」と声を張り上げようとすると、一人の長身男子生徒が未奈ちゃんの前につかつかと歩み寄った。未奈ちゃんを見つめる顔つきは決意に満ちている。
「水池未奈さん! ずっと昔から好きでした! 俺と付き合ってください!」
 長身男子がばっと頭を下げた。撮影音が一瞬で止む。
「はぁ? いやちょっと……。あんたと知り合って、このクラスに私が入って何秒だっての。いやほんと……もう。──なんて言ったらいいか」
 未奈ちゃんはあたふたと言葉を並べ立てた。頬は恥ずかしさゆえかほんのりと赤らんでいる。
「だいたい予想はしてたけど、やっぱり未奈ちゃん大人気だね」
 感慨を口にして皇樹を見やると、苦々しいような不満げなような、複雑な表情をしていた。
 訝しみつつもしばらく見つめていると、「あ、ああ。水池の周りは中学ん時からああいう感じだからな」と思い出したように皇樹が呟いた。