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 結局、ボール回しは八本までだった。最後はもうバテバテだったにも拘わらず、直後にはコーン・ドリル(四つに並んだコーンの間を往復する練習)が十本三セットあった。
 終了後、輪になってストレッチをした。時計回りで順番にテン・カウントをしていく決まりだったから、自分の番の時は、雷鳴の如き大声を出してやったよ。
 ただ、「3」で声が裏返った時は、軽く笑いが起きた。でも目立てたし無問題(モーマンタイ)っすわ。年がら年中、常にポジティブ。俺のモットーである。
 ストレッチを終えた俺たちは、全速力でコーチの元に集まって体育座りをした。
「おう、お疲れ」後ろ手を組んで立つコーチは、淡々と述べた。
「「お疲れ様です」」
「新一年生が受験勉強で訛ってるだろうから、軽めにしといた。きつくはないだろ」
 コーチは、さらりと同意を求めてきた。きつくないことはなかったけどね。
「Cは、基本的に休み期間中は、朝九時、夕方十七時からの二部練習。AやBより練習せんと上に行けるわけがないからな。明日から二部練をやってくから、時間には遅れんな。遅刻した奴は、遅れた分の数の二倍周、全力ダッシュでグラウンドを走らす」
 断定的に告げてくる。遅刻とかありえんし罰走ぐらいは当然だね。
「それとCには、マネージャーはいない。竜神サッカー部はマネージャーが少ないから、AとBに全員が回ってる。高待遇を受けたけりゃ伸し上がれ。竜神高校の鉄則だな。言っとくがうちのマネージャーは別嬪揃いだぞ。そういう楽しみもあるし、とっとと上に上がることだな」
 柳沼コーチは細い目のまま口だけで笑う。
「自主練習だが、場所は、使用自由Cのグラウンドと予約すれば使えるフットサル・コートがある。上級生、後で詳細を教えてやれ。グラウンドの整備や道具の管理は、君らに任す。何でも良いけど、練習に支障が出んようにしろ。
 それと渡す物があるから、新一年生は、後で寮の三〇二号室に来い。俺の部屋だから。ああ、もう従いていけんから辞めるって奴は来んでいいぞ。金が勿体ない」
 柳沼コーチは、日照り続きのゴビ砂漠もかくやってドライな口振りで吐き捨てた。
「俺からは、以上だ。選手からは何かあるか」
 誰からも返事がない。
「うし、解散」
「「ありがとうございました」」
 俺たちは一斉に、コーチにお辞儀をした。