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友達も彼氏も傷つけて、幻滅させた。その事実がわたしの心を重く埋め尽くしていて、部屋の電気を消したのはもうだいぶ前なのにいっこうに眠れない。オレンジ色の豆球だけが小さく灯った部屋の中、わたしはベッドの上で上体を起こした。枕元の時計は午前1時をさしている。
「……」
気を抜くとすぐにため息が出てしまう。家に帰り、食事や宿題で忙しくしているうちはよかったけれど、お風呂で湯船に浸かったあたりからもう30回以上はため息をついている気がする。
美優が言った、卑怯、の言葉。
渡部くんが最後に放った、自分のことを認めろという言葉。
話を繋げると、自分が最底辺のエゴイストだと自覚しろということになる。あまりにもストレートな売り文句だが、それを2人に言わせたのはわたしだ。
美優たちを友達と呼んでいいのか。渡部くんを彼氏と思っていていいのか。結局こうして傷つけてしまうのなら、もう関係など断ち切ってしまったほうがいいのではないか。いや、その考えすらただの甘え、自己陶酔でしかないか。
離れたほうが幸せになれるなんて幻想だ。このまま離れたら、きっとずっと引きずるだろう。
目を瞑ってもいっこうに眠れる気配がなかった。時計の秒針が規則正しく動く音が気になって、余計に目が冴えてしまう。
そもそも友達なんて作らなければよかったのだ。愛想ぶってにこにこなんかしないで、中学の時のように四方八方に壁を作って、誰とも必要以上に関わらないようにしていたらよかった。そうすればきっと、渡部くんがわたしを見つけてしまうこともなくて、今もひとりで、こんなふうに悩むことだってなくて――
ずき、と痛む胸元を抑える。
本当にそのほうがいいのか?
何のために、わたしはずっと偽りの仮面を被っていたのだろう。だって、傷つきたくないならずっと一匹狼でいたらいいだけだ。そうしなかったのは何故?
わたしはどうして遠方の高校を選んでまで、笑って過ごす生活を選んだのだろう?
「……友達、欲しかったんだ」
答えは明白だった。新しく他人と関係を築けば、また崩れるリスクがあるのはわかっていたのに、それでもわたしは誰かと繋がっていたいのだ。
偽ってでも、わたしのことを好いてくれる人がほしかった。近い距離で心を交わせる人がほしかった。くだらないおしゃべりをしたり、一緒に甘いものを食べたり、何気ない日常を誰かと一緒に笑顔で過ごしたかった。
だから、わたしは決めたんだ。高校に行ったら笑顔で明るく振る舞おうと。嘘だらけでもいいから、友達の枠を埋める人がほしかったから。
「最低だ」
優しくしてくれる人たちの気持ちを踏みにじっているのは、わたしなのに。それでも、美優たちも渡部くんも、わたしと向き合おうとしてくれる。
間違いなくわたしは卑怯で、最低で。わかっていたつもりだったけれど、いざ向き合おうとするとあまりに痛い。泣きたいけれど、こんなわたしには泣く権利もきっとない。