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その日の夜、メッセージをくれたのは美優だった。
《帰り、急に降ってきたけど大丈夫だった?》
唐突な切り口の、一文だけのメッセージ。何か他に聞きたいことがあって、切り出すタイミングを伺っている様子がわかる。
大丈夫だったよとだけ返事を送ると、すぐにまたメッセージを受信した。
《今日、何かあった? 香帆にしては珍しい突っかかり方だったなと思って。言いにくいことなら無理にとは言わないけど、何かあるなら話してほしい》
率直な文章を和らげる、かわいいキャラクターのスタンプが添えられている。
話してほしい、と言われたって、わたしのこの気持ちはメッセージではうまく伝えられない。かといって電話で今の時間から話したいことでもなかった。時間はもう夜の10時を過ぎている。
《迷惑かけてごめん。そのうち、ちゃんと話す。理沙にも明日謝るから》
そのうちちゃんと話したい気持ちがあるのは本当だ。それがいつになるかの約束ができないだけで。クラスが離れても仲良くしてくれている3人と、このままで付き合い続けることは難しい。いつかは自分の胸の内を明かさなければいけないし、その結果離れていってしまうのならば受け入れなければならない。もしわたしから打ち明けないままでいれば、いずれ彼女たちと距離をおくことになるのは明白だ。
わたしだったら、ずっと仲良しのつもりだった相手から実は信頼されていなかったと知ったら、腹が立つだろうと思う。それが普通のはずだ。
メッセージの受信を知らせる短い電子音が鳴った。
《調子が悪いなら無理はしないで。あの後理沙とも話して、あの子は落ち着いてるから。わたしも華恵もどっちかと言えば香帆のほうが心配。顔色も良くなかったしさ》
文字通りに読めば、わたしのことを案じてくれている内容でしかない。それなのに、胸の中にちくりと棘が刺さったような気がした。
無理しないでだなんて。わたしは無理をしなくちゃ、あなたたちと一緒にいられないのに。今までのわたしは、全部努力の末の姿なのに。
いや、――そんなものはわたしの都合でしかない。
《ごめん。文章でうまく書けないから、今度、あらためて話させて》
《わかった、待ってる》
ごめん、と心の中で繰り返した。
隠し事をしてごめん。嘘をついてごめん。疑ってばかりでごめん。何も話せなくてごめん。
理沙が短絡的なことを考えているわけじゃないことも頭では理解している。そもそもサプライズの相手はわたしじゃないし、事情も違う。祝福の気持ちで企画する彼女の気持ちに、わたしなんかが水を差していいわけがなかった。
冷静になって頭がすっきりしてくると、いかに自分が馬鹿なことを言ったのかが浮き彫りになる。
「最悪……」
幻滅されただろう。あんなやつ、と、3人は内心わたしのことを嫌いになったかもしれない。
それを嫌だと泣いてすがるような真似はできない。
情けない感情を吐き出したくて、スマホの画面を点けた。連絡先から渡部くんを呼び出してメッセージ画面を開く。今朝、おはようの挨拶を交わしたやり取りを見て、ため息が出た。
また渡部くんに頼ってしまうところだった。いくら彼がわたしに優しくて親身になってくれるからって、ちょっと苦しくなったからって何でもかんでも相談するのは違う気がした。
わたしが、わたし自身で解決しなくちゃいけないことだ。
渡部くんに対して思ったように、美優たちのことも信じられるようになりたい。
《部活お疲れさま。ゆっくり休んでね、おやすみ》
それだけ渡部くんに送信して画面を消した。返事が来る前に電気を消して寝てしまうことにした。