「夢を見るの」



沙也加は怯えて言った。


「夢?」



僕が聞くと、彼女は伏し目がちの目をゆっくりと上げこちらを見た。



「そう。目が覚めると私は霊園にいて、その暗がりをずぅっと彷徨ってるの。早くここから出なきゃって思うんだけど、出口が分からなくて、同じ道を行ったり来たり」

「……それは怖いかもしれない」

「でしょ? だから私最近寝るのが怖いんだ」



沙也加は眉を下げて困ったように笑った。

僕はギュッと胸が締め付けられる思いがした。




「僕が一緒に居てあげられたらいいのに」

「私の夢の中に?」

「そう沙也加の夢の中に」



沙也加は僕の答えを聞くと満足そうに笑った。


「二人なら怖くないね」

「そうだよ。そのときはお弁当を持ってピクニックでもしようか」

「太田が作ってくれるの?」

「あぁ、沙也加が好きなサンドイッチを作ろう」

「ふふ、それならきっと、きっと楽しいね__あれ、……おかしいな、なんだか眠たくなってきちゃった」



ふあぁと大きな欠伸をした沙也加。

その目はトロンとしている。

彼女と会える時間は次第に短くなっている。



「おやすみ、沙也加」



僕がそう言うと、彼女は淡くゆらゆらと溶けてゆく。

君はいつも遠くから会いに来てくれていたんだね。

彼女が眠りに落ちた世界はじんわりと汗ばんで僕に夏を思い出させた。