私と先輩が、出会ってから、数日が経った。あの、人気者の先輩と2人きりになったとは、口が裂けても言えない。
「千夏〜!久しぶり!」
「久しぶりって。まだ夏休み始まって1週間しか経ってないでしょ。」
笑いながら、つっこむ。
「千夏、最近なんかいいことあった?」
正直ぎくっとした。
遥はいつも感がいい。それで助かることもあるけれど、今日はちょっと気まずい。
「ん?なんもないけど?どうして?」
心苦しいが、嘘をつく。
「ふーん。ならいいけど。嬉しそうな顔してたのにな〜」
まだ納得していないみたいだったが、とりあえずはぐらかせたことに安堵する。
今日は遥と、図書館に勉強しに来た。
「ほら、早くしないといい席取られちゃうよ。あそこの窓際はめっちゃ人気なんだから。」
遥に急かされて、早足で追いつく。
「ねぇ、遥。なんで人っていじめるんだろう。あ、ほら、全ての人がっていうことじゃなくて、一部の人だけだけどね。」
「なに急に。珍しいね。ん〜、これは私の持論なんだけど、人は自分が持ってないものが羨ましくて、その羨ましさの裏返しでいじめてしまうんじゃない?自分じゃ気がつかないうちに、やってることがいじめになるみたいな。実際、私、小学校でいじめられてたんだけどね、今はもう仲直りというか、心から謝ってもらったんだけど。その子になんでいじめたのって聞いたら、私の髪の毛がサラサラツヤツヤで、男子たちがあーゆうのがいいよなって言ってたからなんだって。すごくくだらないと思わない?でも、それが本人の中ではすごく大きなことで。だから、いじめってなにから発生するかわからないし、どんな子がやるかわからないから、怖いんだと思う。いじめられてる側は、そのときはなんでいじめられてるかわからないから、余計に怖いんだよね。」
遥がいじめられていたなんて初めて聞いた。そんなタイプに見えない。でもそれも偏見っていうものなのかもしれない。いじめられてもこんな風に吹っ切れる人もいるんだなぁと、感心していながら、遥の持論にとても納得した。
遥と勉強したあとはそのままの足でいつもの場所に向かった。夏休みが始まってから、毎日のように足を運んでいる。もちろんそこに夏輝先輩もいて、静かに夕陽を見ている日もあれば、話している日もある。いつのまにか、あの場所で昔の記憶がフラッシュバックしてくることもなくて、穏やかに過ごせている。
「先輩、あの鳥居って昔、すごくボロボロだったって知ってますか。」
「え、そうなの?僕、実は中学生の時に引越してきたから知らなかったなぁ。」
あ、まずいこと聞いたかなって思った。彼の顔が曇ったような気がした。でも、そうじゃない。ちゃんと伝えたいことがある。
「あの鳥居、今じゃ、世界で人気の観光スポットなんですけど、10年前まではそうじゃなくて、地元の人でさえも、気にかけていなかったくらい古くて、しかも住職さんもいないから、子供たちの遊び場になってたんです。先輩、子供たちは鳥居のこと、どう思ってたと思いますか?」
「ただの古い鳥居だなぁとか?」
普通の人ならそうだろう。
「違います。みんな、あの鳥居は神様だと信じてました。私も含めて。」
先輩がきょとんとしているのがわかる。
「あそこではみんな仲良くしていたんです。神様の前で喧嘩なんてしたら、ばちが当たると思って。だから、みんなすぐ仲直りできたり、新しい友達を作れていました。だから、先輩も、もしかしたら、ここの地元の人は先輩が思っているよりも気にかけてくれているかもしれません。絶対とは言い切れないですが、、、。みんな、小さい時からいじめはよくないってしっかりわかっています。先輩にも、心が許せるお友達ができるといいですね。」
「励ましてくれてありがとう。千夏さんは優しいね。」
先輩は驚いたようにしたあと、そう言った。
「ねえ、千夏さん。ちょっと海に行こうよ。ちょうど潮が引いて、鳥居まで行けるくらいになったし。」
先輩は唐突に、でも初めから決めていたかのように私を誘った。
潮が引くと、鳥居までの道が開けるのではなく、水位が下がって、足首くらいの深さになる。夕方になると、観光客も減って、砂浜は静かになる。観光客のほとんどは、鳥居に近づかないと思っているけど、地元の人は、潮が引くと歩いて近づけることを知っている。
「わっ、つめたっ」
久しぶりに足を入れた海は、夏なのにも関わらず思っていたよりも冷たくて、驚く。
「思ってたよりも冷たいね。」
先輩は、なんとも無さそうに言う。
「先輩はよく海に来ますか?」
「いや?気が向いた時だけ。落ち込んだときとか。」
分かる気がする。私も落ち込んだ日の夜には、秘密基地か、鳥居まで来て、海を見てぼーっとすることがある。
「それでどうして鳥居に?」
先輩はなにも言わずに鳥居の下を指差す。
私はその目線の先を辿ってそちらを見た。
思わず息をのむ。そこには、透き通り、輝いている青い石、いや結晶があった。
「先輩、これどうしたんですか。」
人が持ってくるには到底無理な大きさだ。石と言ったが、岩かもしれない。だから、海の潮にも流されなかったのだろう。
「これ、一昨日来た時からあったんだよ。君に見て欲しくて。これももしかしたら、神様がここまで運んできてくれたのかな。」
「綺麗ですね。先輩の瞳の色とおんなじ。」
今は夕陽の茜色を透かしているが、これが夜の月光を透かしているとより綺麗だろうなと思った。
「ねえ、このままの自分で過ごしていくか、勇気を出しててありのままの自分をさらすの、君ならどっちを選ぶ?」
先輩は、儚いような、すぐに消えてしまいそうな顔で聞いた。
「私は、、、、すみません。さっきあんなに偉そうなことを言ったんですけど、言えないこともあります。今の高校は地元の子達だけじゃないし、今思っていることを伝えても相手が困るんじゃないかと思ってしまいます。でも、いつかは、仲がいい子には伝えたいと思ってます。」
「そう、、、。そのまま思ったことを言ってくれて嬉しいよ。まだ、目のことは秘密にしておこうかな。千夏さんとだけの秘密じゃなくなっちゃうしね。」
彼は優しく微笑んだ。
「千夏〜!久しぶり!」
「久しぶりって。まだ夏休み始まって1週間しか経ってないでしょ。」
笑いながら、つっこむ。
「千夏、最近なんかいいことあった?」
正直ぎくっとした。
遥はいつも感がいい。それで助かることもあるけれど、今日はちょっと気まずい。
「ん?なんもないけど?どうして?」
心苦しいが、嘘をつく。
「ふーん。ならいいけど。嬉しそうな顔してたのにな〜」
まだ納得していないみたいだったが、とりあえずはぐらかせたことに安堵する。
今日は遥と、図書館に勉強しに来た。
「ほら、早くしないといい席取られちゃうよ。あそこの窓際はめっちゃ人気なんだから。」
遥に急かされて、早足で追いつく。
「ねぇ、遥。なんで人っていじめるんだろう。あ、ほら、全ての人がっていうことじゃなくて、一部の人だけだけどね。」
「なに急に。珍しいね。ん〜、これは私の持論なんだけど、人は自分が持ってないものが羨ましくて、その羨ましさの裏返しでいじめてしまうんじゃない?自分じゃ気がつかないうちに、やってることがいじめになるみたいな。実際、私、小学校でいじめられてたんだけどね、今はもう仲直りというか、心から謝ってもらったんだけど。その子になんでいじめたのって聞いたら、私の髪の毛がサラサラツヤツヤで、男子たちがあーゆうのがいいよなって言ってたからなんだって。すごくくだらないと思わない?でも、それが本人の中ではすごく大きなことで。だから、いじめってなにから発生するかわからないし、どんな子がやるかわからないから、怖いんだと思う。いじめられてる側は、そのときはなんでいじめられてるかわからないから、余計に怖いんだよね。」
遥がいじめられていたなんて初めて聞いた。そんなタイプに見えない。でもそれも偏見っていうものなのかもしれない。いじめられてもこんな風に吹っ切れる人もいるんだなぁと、感心していながら、遥の持論にとても納得した。
遥と勉強したあとはそのままの足でいつもの場所に向かった。夏休みが始まってから、毎日のように足を運んでいる。もちろんそこに夏輝先輩もいて、静かに夕陽を見ている日もあれば、話している日もある。いつのまにか、あの場所で昔の記憶がフラッシュバックしてくることもなくて、穏やかに過ごせている。
「先輩、あの鳥居って昔、すごくボロボロだったって知ってますか。」
「え、そうなの?僕、実は中学生の時に引越してきたから知らなかったなぁ。」
あ、まずいこと聞いたかなって思った。彼の顔が曇ったような気がした。でも、そうじゃない。ちゃんと伝えたいことがある。
「あの鳥居、今じゃ、世界で人気の観光スポットなんですけど、10年前まではそうじゃなくて、地元の人でさえも、気にかけていなかったくらい古くて、しかも住職さんもいないから、子供たちの遊び場になってたんです。先輩、子供たちは鳥居のこと、どう思ってたと思いますか?」
「ただの古い鳥居だなぁとか?」
普通の人ならそうだろう。
「違います。みんな、あの鳥居は神様だと信じてました。私も含めて。」
先輩がきょとんとしているのがわかる。
「あそこではみんな仲良くしていたんです。神様の前で喧嘩なんてしたら、ばちが当たると思って。だから、みんなすぐ仲直りできたり、新しい友達を作れていました。だから、先輩も、もしかしたら、ここの地元の人は先輩が思っているよりも気にかけてくれているかもしれません。絶対とは言い切れないですが、、、。みんな、小さい時からいじめはよくないってしっかりわかっています。先輩にも、心が許せるお友達ができるといいですね。」
「励ましてくれてありがとう。千夏さんは優しいね。」
先輩は驚いたようにしたあと、そう言った。
「ねえ、千夏さん。ちょっと海に行こうよ。ちょうど潮が引いて、鳥居まで行けるくらいになったし。」
先輩は唐突に、でも初めから決めていたかのように私を誘った。
潮が引くと、鳥居までの道が開けるのではなく、水位が下がって、足首くらいの深さになる。夕方になると、観光客も減って、砂浜は静かになる。観光客のほとんどは、鳥居に近づかないと思っているけど、地元の人は、潮が引くと歩いて近づけることを知っている。
「わっ、つめたっ」
久しぶりに足を入れた海は、夏なのにも関わらず思っていたよりも冷たくて、驚く。
「思ってたよりも冷たいね。」
先輩は、なんとも無さそうに言う。
「先輩はよく海に来ますか?」
「いや?気が向いた時だけ。落ち込んだときとか。」
分かる気がする。私も落ち込んだ日の夜には、秘密基地か、鳥居まで来て、海を見てぼーっとすることがある。
「それでどうして鳥居に?」
先輩はなにも言わずに鳥居の下を指差す。
私はその目線の先を辿ってそちらを見た。
思わず息をのむ。そこには、透き通り、輝いている青い石、いや結晶があった。
「先輩、これどうしたんですか。」
人が持ってくるには到底無理な大きさだ。石と言ったが、岩かもしれない。だから、海の潮にも流されなかったのだろう。
「これ、一昨日来た時からあったんだよ。君に見て欲しくて。これももしかしたら、神様がここまで運んできてくれたのかな。」
「綺麗ですね。先輩の瞳の色とおんなじ。」
今は夕陽の茜色を透かしているが、これが夜の月光を透かしているとより綺麗だろうなと思った。
「ねえ、このままの自分で過ごしていくか、勇気を出しててありのままの自分をさらすの、君ならどっちを選ぶ?」
先輩は、儚いような、すぐに消えてしまいそうな顔で聞いた。
「私は、、、、すみません。さっきあんなに偉そうなことを言ったんですけど、言えないこともあります。今の高校は地元の子達だけじゃないし、今思っていることを伝えても相手が困るんじゃないかと思ってしまいます。でも、いつかは、仲がいい子には伝えたいと思ってます。」
「そう、、、。そのまま思ったことを言ってくれて嬉しいよ。まだ、目のことは秘密にしておこうかな。千夏さんとだけの秘密じゃなくなっちゃうしね。」
彼は優しく微笑んだ。


