別れて1週間の君と学校をサボって海に行った。行ってしまった。

この1週間、私の頭の中にはずっと君がいた。
覚悟を決めて、君と別れる決断をしたのは私のほうなのに、どうやら私は頭がおかしくなったみたいだ。
別に未練があったわけじゃない。ただ、後味が悪いなと思っただけ。それだけなんだ。
このまま、時が過ぎるのを待つだけだなんて私らしくないし、なにより後悔が残ると思った。
そう思った私は、行動してみることにした。
どうしても君と最後にやり残したことをしたい。
飽きるほど見慣れていた君とのLINEを開き、右上の電話ボタンを押した。後悔だけは絶対にしたくなかった。
「急にごめんね。明日さ、学校サボって海行こうよ。」

「いってきます。」
いつも通り私は制服を身に纏って家を出た。
ただ「いってきます」と言っても学校に行くなんてことは一言も言ってない。バス通学の私は最寄り駅の改札を通り、電車に乗りこんだ。もちろん1人ではない。隣には同じ制服姿の君がいる。
私たちの目的地は、由比ヶ浜。

さすがの君も不審がっていた。当たり前だ。
別れた恋人から急に電話が来たと思ったら、一言目には「海に行こう。」である。どう考えても狂っている。
こんな無茶な提案でも君は断らないことを私は知っていた。
君ってそういう人なんだもの。
由比ヶ浜までの道のりは、何気ない世間話を交わした。
部活のこと、共通の友達のこと、互いの近状報告など至って普通の高校生らしい会話だと思う。

目的地に着くなり、私は相手が別れた恋人だということを忘れたかのように明るい声で言った。
「一緒に海入ろうよ!」
断られた。一緒に海に行くのはいいのに、入るのはダメなのか。仕方がないため、私1人で海に入ることにした。
そんな私を君は少し離れた場所に腰をかけて見ていた。

誕生日に連れていってくれた海。初日の出を見に行った海。全部この場所だった。そして、その時いつも隣にいたのは君だった。だけどこれからは違う。私達はもう過去の関係。いつまでも過去に囚われている自分に腹が立った。そんな自分を捨てたかった。いや、今日捨てに来たのだ。

私は目からすうっと一筋、水を流していた。
水が海にこぼれ落ちて、自分が泣いていることに気がついた私は、無理矢理に手の甲で拭いた。
幸いなことに、君は気づかれるような距離にはいなかった。

初めて誰かをこんなに好きになれた。依存した。
嫉妬した。本気で愛していた。
私にとって君はそれほど特別な人だったんだよ。

やっぱり私は頭がおかしくなってしまったみたいだ。
こんなにも好きだった人を自ら振ってしまうだなんて。
その後にこんなわがままに付き合わせてしまうだなんて。
ところで、私の目から永遠と流れてくるこの水の正体は一体何なのだろうか。
やっぱり君のことを考えると、私は頭がおかしくなって苦しくなる。今まで数え切れないほど、これに悩まされてきた。けれど、君のことを考えて涙する日も今日で終わり。

「私がずっと言えなかったこと!!」
君のところへ駆け寄った。
風がふわっと吹いて、君の髪はすっかり自然のおもちゃにされていたが、そのおかげで顔を久しぶりにはっきりと見ることができた。後悔だけは絶対にしたくない。
その思いだけを嘘ひとつない言葉に出した。
「最後に君と話したかった。またこの場所に君と行きたかった。それだけなの、だからありがとう。」
君は寂しそうな嬉しそうな、上手く言葉にできない表情をして頷いた。君は強いよ。
君とまたここで__
私の最後にやり残した後悔は、この由比ヶ浜の海が丸ごと飲み込んでくれたように感じた。

これからはそれぞれの道を歩んでいくから。
スマホケースに入れっぱなしだった彼とのチェキを外した。2人のプリクラも机の奥底にしまった。
終わりにはそれなりの覚悟が必要だったことを今となって知った。だから私はもう一度、覚悟を決めた。
君との関係はこれで終わり。私は自分の気持ちに終止符を打った。やっと打てた。

2人で学校に戻ることにした。どうしてかというと、4限目が体育だったから。君は体育が大好きで、私は好きな物には真っ直ぐなそんな君が大好きだった。