――場所は、学校から徒歩7分の場所にある、風上派出所。
 ここは二階建ての古くて白い建物で、入口左手前には掲示板がある。
 今は小学生の下校時刻で派出所前には見守り警護中の警察官が立っている。
 私はしゃがんだまま、その横で寝転んでいる猫を触りながら警察官に呟いた。


「好きな人がフラれて落ち込んでいるから何かしてあげたいのに、自分は何を言ってあげるのが正解かわからないし、何もしてあげられなくて……」


 この派出所に通い始めてから2ヶ月。きっかけは”迷い猫”の一枚の張り紙を貼らせてもらったこと。
 ここに棲みついている番犬ならぬ番(ニャン)を触るのが日課になっている。名前はチロル。人懐っこい黒猫だ。

 通学路の一角にある派出所なので3〜4日に一度は遊びに来ている。そのせいか、白髪交じりで中肉中背の50代半ばの警察官の彼の鈴木さんと友達になった。
 唯一本音を話せる人が両親よりも年上の警察官だなんて自分でも驚いている。


「粋ちゃんは優しいんだね。彼の為に何かしてあげたいなんて」

「そんなことないです。思ってるだけで何も出来てませんから」

「相手を思いやる気持ちも大事なんじゃない?」

「でも、それだけじゃ物足りなくて……。心の中でブレーキがかかるんです。余計なことを言ったら更に傷つけちゃうんじゃないかなって。だから、何もしない人と一緒です」

「いや、力になってあげようと思ってるなら、何もしない人と一緒じゃないよ。それなら、あと一歩の勇気を出して粋ちゃんの思いを伝えてみるのはどうかな」

「えっ」

「そっと見守ることが正解な場合もあるけど、元気づけてあげることが正解の時もある。人それぞれ受け取り方が違うから、粋ちゃんがそれを見極めて力になってあげればいいと思う」


 言われてみれば、まだ彼に心の内を伝えていない。
 ただ、赤城さん達の関係がバレないように。加茂井くんが傷つかないようにと差し支えのないことばかりをしていた。
 今この瞬間だって、同じところで足踏みしているだけで前に進もうとしていない。
 もしかしたら突っぱねられてしまうかもしれないけど、何もしなければ同じ悩みから抜け出せない。それに、私が寄り添うことで力になれることがあるなら、試してみる価値はある。

 だから、私は……。