レイラと剣術を学んでから2年が経った。
俺は12歳、レイラは13歳。
相変わらず剣術の成長が凄まじいレイラ。
俺の父とほぼ互角に渡り合っている。
まだ父は本気を出していないだろうがそれでも凄い。
もちろん木刀ではあるが、あれは当たると結構痛いものだ。
俺が1番身に染みて感じている。



「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」

俺とレイラは父に一礼し本日の特訓は終了だ。

「なぁレイラ」
「なに?」
「レイラは大人になったらやっぱり冒険者になるの?」
「当たり前だよ。強くなっていっぱい稼いで……両親を楽させてあげる…の……」
「そうなんだ。レイラは偉いなぁ」

俺たちはこの2年でだいぶ距離が縮まった。
レイラは敬語じゃなくなった。
俺からすると結構嬉しい変化だ。
それにもう1つ嬉しい変化が-

「レイラ、お風呂入らない?汗かいたしさ」
「斬るよ?」
「…冗談だよ、ごめん」

レイラの成長は剣だけじゃなく体も凄まじい。
特に胸が…うちの母さんも大概だがこのままいけばいい勝負になりそうだ。それが楽しみでならない。
これが父親の血なんだろう。ありがた迷惑だなこれは。

「みんなぁご飯よ~」
「では、レイラは失礼します」
「あら、レイラちゃん食べないの~?」
「はい、奥様ありがとうございます。今日は家で食べます」
「そう、残念。またいつでも食べに来てね~」
「はい、その時はぜひ」

相変わらずレイラの人見知りは変わっていない。
どうやらうちの母との距離感がまだ掴めていないらしい。
言葉の固さからヒシヒシと伝わってくる。
父親や俺とはほぼ毎日顔を合わせて居るが、
うちの母とは顔を合わせることはあっても帰る時くらいだ。
故にまだ距離感が掴め無い様子。

「私あの子に嫌われているのかしら?」
「いやそういうんじゃないだろう。年頃の女の子だ。そういうもんだろう」
「うんうん、母さんを嫌う要素なんてひとつもないよ」
「あら~?そう?ありがとう2人とも」


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早朝。
今日はレイラが居ない。家の用事があるとかで。
剣術は久しぶりのタイマンだ。

「今日はレイラが居ないからな。厳しめに行くぞ」
「お、お手柔らかにお願いします」

この父親本当に手加減しなかった。

「ありがとうございました!」

俺は少し父さんを嫌いになりかけた。
どこかで父さんの秘密を握れたら、母さんにバラしてやる。
俺は自分に誓った。

「今日この後、母さんから魔法を教わるのか?」
「もちろん!」

俺は相変わらず、支援魔法を会得しようと母に教わっていた。
結果は未だ出ていない。でも、初めてレイラに喝を入れられたあの日からより一層おれは魔法にも力を入れることにした。



「じゃあ今日もやるわよ~」
「お願いします!母さん!」

母さんはヒーラーだが、俺と違って支援魔法をちゃんと使える。ちゃんと使えると言うと俺がちゃんとしていないみたいな感じだが。

「アスフィちゃん、母さん思ったのよ」
「どうしたの、母さん」
「回復魔法を極めるのはどうかしら?」
「えっと、『ヒール』と『ハイヒール』を?」
「そう、もちろんそれもあるわよ~?でもね、アスフィちゃんは回復の才能が私より高いわ。だからね?回復魔法に特化したみんなを笑顔にできる癒しのヒーラーになればどうかしら?」
「それはつまり、回復専門のヒーラーってこと?」
「ええそうよ、何れ『ハイヒール』以上の魔法も覚えられると思うの。母さんが『ハイヒール』しか回復魔法を覚えていないからそれ以上は教えられないけどね-」

それから母は続けた。
俺がヒーラーになったきっかけの言葉だ。

「世の中には私なんかよりもっと凄いヒーラーがいるのよ~?だからね、アスフィちゃんは冒険者になって旅にでて、その凄いヒーラーになるべきよ!」
「うーん、ヒーラーって儲かるのかな」
「なんとかなるわ~」

これが俺がヒーラーになったキッカケになった日の話だ。
それから毎日俺は剣術の修行の後は、
『ヒール』と『ハイヒール』の特訓に励んだ。

まずは詠唱。魔法には詠唱が必要不可欠だ。
しかし熟練の魔法使いは詠唱破棄するものもいる。
俺は母の教えの甲斐あって、詠唱破棄は5歳児の段階で既に出来ていた。母はもちろん全ての魔法を詠唱破棄できる。
母は冒険者協会認定ではC級とされているが、
父親いわくアイツはA級クラスとのこと。
なぜなのか聞いてみると、

「本来C級の魔法使いは詠唱破棄なんてできんからな」

とのこと。
ヒーラーは評価がしにくい職が故に母の評価も過小評価されているのだろう。
少なくともこの田舎町では、1番優秀なヒーラーとのこと。
この町では、1番強い父と1番優秀な母。
小さな町とはいえ、流石だ。
レイラの母親が訪ねてきたのも頷ける。

ある日母さんにこんなことを聞いてみた、

「そういえば母さんの支援魔法って何種類あるの?」
「んーっとね~、10種類くらいかしら?」
「そうなんだ」

10種類がどれほど凄いことか、
この時の俺はもちろん知る由もない。

「じゃあ母さん、僕はみんなを笑顔にできる最強のヒーラーになるよ!」
「みんなを笑顔にできる最強のヒーラー?いいわね、その意気よ。流石はうちのアスフィちゃんだわ~夢が大きくて頼もしいわ~」

子供の言っている事だ。
だが母さんは本気で期待してくれている。
そういう人なんだ。最強のヒーラーになる……
これが母との最後の誓いだった。