翌日、朝食に席に集まった皆の前で八重が離婚届を破り捨てると拍手が起こり、昨日の宴会の続きだと朝からどんちゃん騒ぎが起こった。
朝から酒を飲み始めた神様達に感謝と謝罪をして回ると、皆一様に何かあったらすぐに連絡してきなさいと言ってくれた。本当に優しい方ばかりで一花も朝から宴会を楽しんだ。
そう言えば、スマホはどこにいったのだろうか。昨夜時雨に貸してから返ってきていない。
時雨に聞いてみると、今思い出したといった様子でスマホを一花に返してくれた。
何気なしに画面を点けると、未だに男から連絡が入って来ていた。内容は見ないようにしつつ母のメッセージを開く。
最後に来ていたのは、ほんの数分前。
【あんたのせいで私は不幸せだ。ふざけんな】
そう書いてあった。
「一花のせいじゃない」
背後から覗いている八重がむっとした様子で言う。
八重の言う通り、一花の幸せが一花の采配次第ならば母の幸せも母の采配で決まるはずだ。
一花も母も自由なのだから。
「一花のお母さんには僕からお金を送っておいてあげる」と八重が言ってくれたのでその旨を書くためにスマホを操作して、最後のメッセージを送った。
【お母さん。今までありがとうございました。私は春屋敷で幸せになります。お金は八重が送金してくれるそうです。お母さんもどうか幸せに】
送信してから男の連絡先は消した。
母からの連絡が返って来る前にスマホを閉じた。
これで良かった。きっとこれが最善だった。
「一花」
静かに隣に来た八重が一花の肩に手を乗せる。その温かさにほっと体から力が抜けた。
「一花にも君の母親にも選択肢はたくさんある。きっと大丈夫だよ」
八重の言葉に頷き、その体温に少しだけ体を寄せた。
それから、一花は春屋敷で過ごした。
春の日だまりは穏やかに過ぎ去り、立夏へと役目を引き継ぐ。たくさんのものに触れ、秋になり、皆でテーブルを囲い、色を付ける景色に心打たれた。冬は寒さを弱らげるために寄り添い、また春が来た。
春を告げる風が吹く。
「一花」
桜の芽吹く木を見ていた一花は、背後から聞こえて来た声に振り返った。
「八重さん」
春を背負った夫は、美しい笑みを浮かべて一花の元へ来ると流れるような仕草で手を握る。
さっと顔を赤くすると、八重はくすくすと笑う。
「そろそろ慣れてくれてもいいのに」
「八重さんも私が抱き着くと照れるじゃないですか」
「それは、まあね。大好きな子に抱き着かれているわけだから」
お互い顔を赤くしながら見つめ合っていると、背後から一花達を呼ぶ声が掛かった。
「そこのバカップル、早く来なさい」
「そうですよ、家主が不在なんてしまらないですよ」
「早く来て音頭をとってくれ」
時雨、紅葉、立夏の言葉に一花と八重は手を繋いで屋敷に戻った。
春を告げる屋敷は今日も笑顔が溢れている。
朝から酒を飲み始めた神様達に感謝と謝罪をして回ると、皆一様に何かあったらすぐに連絡してきなさいと言ってくれた。本当に優しい方ばかりで一花も朝から宴会を楽しんだ。
そう言えば、スマホはどこにいったのだろうか。昨夜時雨に貸してから返ってきていない。
時雨に聞いてみると、今思い出したといった様子でスマホを一花に返してくれた。
何気なしに画面を点けると、未だに男から連絡が入って来ていた。内容は見ないようにしつつ母のメッセージを開く。
最後に来ていたのは、ほんの数分前。
【あんたのせいで私は不幸せだ。ふざけんな】
そう書いてあった。
「一花のせいじゃない」
背後から覗いている八重がむっとした様子で言う。
八重の言う通り、一花の幸せが一花の采配次第ならば母の幸せも母の采配で決まるはずだ。
一花も母も自由なのだから。
「一花のお母さんには僕からお金を送っておいてあげる」と八重が言ってくれたのでその旨を書くためにスマホを操作して、最後のメッセージを送った。
【お母さん。今までありがとうございました。私は春屋敷で幸せになります。お金は八重が送金してくれるそうです。お母さんもどうか幸せに】
送信してから男の連絡先は消した。
母からの連絡が返って来る前にスマホを閉じた。
これで良かった。きっとこれが最善だった。
「一花」
静かに隣に来た八重が一花の肩に手を乗せる。その温かさにほっと体から力が抜けた。
「一花にも君の母親にも選択肢はたくさんある。きっと大丈夫だよ」
八重の言葉に頷き、その体温に少しだけ体を寄せた。
それから、一花は春屋敷で過ごした。
春の日だまりは穏やかに過ぎ去り、立夏へと役目を引き継ぐ。たくさんのものに触れ、秋になり、皆でテーブルを囲い、色を付ける景色に心打たれた。冬は寒さを弱らげるために寄り添い、また春が来た。
春を告げる風が吹く。
「一花」
桜の芽吹く木を見ていた一花は、背後から聞こえて来た声に振り返った。
「八重さん」
春を背負った夫は、美しい笑みを浮かべて一花の元へ来ると流れるような仕草で手を握る。
さっと顔を赤くすると、八重はくすくすと笑う。
「そろそろ慣れてくれてもいいのに」
「八重さんも私が抱き着くと照れるじゃないですか」
「それは、まあね。大好きな子に抱き着かれているわけだから」
お互い顔を赤くしながら見つめ合っていると、背後から一花達を呼ぶ声が掛かった。
「そこのバカップル、早く来なさい」
「そうですよ、家主が不在なんてしまらないですよ」
「早く来て音頭をとってくれ」
時雨、紅葉、立夏の言葉に一花と八重は手を繋いで屋敷に戻った。
春を告げる屋敷は今日も笑顔が溢れている。