「本当は同じ教室で聴いてたかったんだけどな。特に交流のない俺が、急に教室に来ても、逆に菜月羽(なつは)は歌わなくなるだろ?」

「そうだね。多分、冬杞(ふゆき)くんに限らず、誰か来てたら、歌うことはやめてたね」

「近くに行きたいと思うけど、近くに行けば歌はなくなる。だから、あんなところから……」

「そうなんだよね。私、全然気付いてなかった」

「ある意味、ストーカーだよ」

「ははは、ストーカーじゃないよ」

「でも、気持ち悪くない?」

「んー、確かに」

「だろ?」

「でも、ストーカーだと嫌だから――、ファンとか」

「ファン?まあ、ストーカーよりはマシかもな」

「でしょ?」

「でも、あの日言った、『新井(あらい)さんの歌を聴かせて』は、別に狙ってた訳じゃねえよ。そんなこと、考えてる余裕なかったし」

「私もあの瞬間には、『あ!歌詞と一緒だ!』とは思わなかった。気付いたのは、ちょっと経ってからかな。あの時は、他の気持ちも強かったから」

「だろうな。俺もめっちゃ必死だったから」

「あ!」

「何?」

「やっぱりストーカーの方が合ってるな、って思って」

「……また、ストーカーに降格?」

「うん」

「まあ、別に誤解されてもいいや、ってあとから思ったよ。強ち、間違ってなかったな、って思うし」

「そっか」

「なんか、こういうの、昔の人も言ってなかったっけ?」

「昔の人?」

「ほら、あの、月がどうとかって……」

「あー、『I love you』を『月がきれいですね』って訳したやつだ」

「それ」

「確かに似てるかも。じゃあ、冬杞くんは、文学的なストーカーだね」

「はは、何だよ、それ」



~♪
傍にいたい でも素直に言えない
行方不明な 僕の心
好きの言葉の代わりに そうだ
「君の歌を聴かせて」

☆☆☆