「あ、これも」

「だな」

「また冬杞(ふゆき)くんの体験談だね」

「ああ」

「でも、何がそんなによかったんだろ?」

「ん?」

「冬杞くんは、歌自体は最初、知らなかったんだよね?」

「うん。あの時、最初に飛び込んできたのは、歌じゃなくて、菜月羽(なつは)の声だった。声そのものに、引き寄せられた感じがする」

「私の声って、そんなに特徴ある?」

「他の人と違うとか、そういうことじゃないんだよ、多分。前から何となく気になってた人が目の前にいて、しかも2人きりで。そういうちょっと特別な感じがよかったんじゃねえかな」

「特別な感じ、か」

「でも今は自信ある。どれだけ周りがうるさくても、菜月羽の声は聞き分けられる」

「本当?それなら、私も自信がある。すぐに冬杞くんの声、分かると思うよ。あ、今回みたいに、わざと声を変えるのはだめだよ」

「はは、頼もしい。じゃあ、人混みで迷子になったら、大声で叫べば見つけてもらえるな」

「そうだね」

「うん」

「あ、そういえば、冬杞くん、この歌のタイトルとかも全然知らなかったんでしょ?1回ぐらい調べてみようとかは思わなかったの?」

「思わない訳じゃなかったけど、知ったところで、って感じだったから。俺が好きだったのは菜月羽の声で、正直、この歌自体じゃなかったし、タイトルとかアーティストとかは別に。それに、」

「それに?」

「この歌はあの場所で聴くものだと思ってたから、それ以上は特に」

「でも、さすがに歌詞は覚えたでしょ?」

「ああ、覚えた」

「やっぱり。じゃあ、今度、冬杞くん1人で歌ってもらおうかな」

「はは、マジかよ」



~♪
君の透き通る声は まるで 1曲の音楽
瞼を閉じて 僕は メロディーを聴いた
動けない 言葉が出ない 心をさらわれた

☆☆☆