「俺が『菜月羽(なつは)の歌が聴けてよかった』って言って」

「私が『冬杞(ふゆき)くんの横にいられてよかった』って言って」

「あれは、お互い確信犯だよな」

「だね」

「俺は本当に好きの言葉の代わりに伝えたつもりだった」

「私もそのつもりだったよ。あ、でも、」

「そうなんだよ」

「私、言ったね、『冬杞くんに会えてよかった』って」

「言った」

「不思議だった?」

「『横にいられてよかった』で完結してると思ってたから、なんでわざわざ付け足したんだろう、って感じだった」

「ふふ、そうだよね。あの時はまだ、3番の歌詞、知らないんだもんね」

「家に帰って、CDを聴いて、このことかって思った。思ったけど、納得はしなかった」

「だよね。だって、3番は――、ね」

「ああ」

「私はあんまり3番が好きじゃない、って言ったでしょ?」

「うん」

「冬杞くんはどう思った?」

「んー、菜月羽の立場を考えたら、やっぱり辛かったんだろうな、って思う」

「うん」

「幸せって感じたことが、全部悲しみになって自分に返ってくる。でも、それを共有する人がいない。

じゃあ、そんな悲しみ、全部忘れてしまえばいいって思うけど、それはきっと過去の幸せも忘れてしまうような感じがして、辛いんだろうな、って。

そういう意味では、2番までの、なんか焦れったいというか、もどかしい感じの、多分、すごく楽しい時期の恋とは違って、3番は一気に悲しい感じになるから。うーん、好き嫌いはあるかもな」

「うん、そうだよね。私も、1番2番ってきて、次はやっと両想いって思ったら、別れちゃうんだ、って。なんか、辛い歌だな、って。

ま、だからこそ、こういうCDがあるんだろうけどね」

「でもさ、」

「ん?」

「まあ、もちろん結果論だけど、」

「うん」

「俺たちも、別れがあって、今に繋がってる訳だろ?」

「……うん」

「この曲のタイトル、菜月羽が言ってたみたいに、1番2番までと、3番までと、ストーリーが全然違うっていう意味もあると思う。あとは、」

「あとは?」

「その先のことも考えられてるんじゃないかな」

「その先?」

「3番でストーリーを終わらせるのか、その先の新しいストーリーを作り出すのか、そういう意味で『アナザーストーリー』になったんじゃねえかな」

「……なるほど」

「そう考えたら、3番もいいんじゃない?」

「……うん、そうだね」

「っていうことで」

「何?」

「久々に歌ってほしい、3番まで」

「今?ここで?」

「誰もいないし」

「んー、いいよ。あ、でも、」

「ん?」

「私が歌うのは、恋人(仮)(かっこかり)の交換条件だったんだよね。でも、今は恋人(仮)じゃない。っていうことは、別に冬杞くんにお願いされても、断ってもいいってこと?」

「いや、そうだけど、それとこれとは話は別っていうか……」

「だったら、はい」

「は?」

「イヤホン、片方ずつ」

「俺も?」

「うん。冬杞くんもオリジナルを聴きながら。やっぱりメロディーはあった方がいいよ」

「俺は別に菜月羽の声があったら――」

「いいから、はい」

「分かったよ」

「気分が乗ってきたら、冬杞くんも歌っていいよ」

「はいはい」

「じゃあ、再生するね」



~♪
君の後ろ姿は まるで1枚の写真
瞼を閉じて 僕は シャッターをきった
動けない 言葉が出ない 心を奪われた

君の透き通る声は まるで 1曲の音楽
瞼を閉じて 僕は メロディーを聴いた
動けない 言葉が出ない 心をさらわれた

傍にいたい でも素直に言えない
行方不明な 僕の心
好きの言葉の代わりに そうだ
「君の歌を聴かせて」

ふと目が合った あの瞬間 きっと出会いは始まっていた
君の歌が 幸せを運ぶ
柄にもなく 想いを伝えた
君の笑顔 君の歌声 僕の心に色がついた


君の揺れる瞳は まるで 1粒のビー玉
右手を伸ばし 私 輝きに触れた
守りたい 一緒にいたい 涙が零れてく

君の儚い笑顔は まるで1片の花びら
右手を伸ばし 私 揺らめきを抱いた
守りたい 一緒にいたい 涙が流れてく

傍にいたい でも素直になれない
行くあてのない 私の涙
好きの言葉の代わりに そうだ
「君の横にいさせて」

ふと目が合った あの瞬間 きっと運命は始まっていた
君の横で 幸せを想う
とりとめなく 想いが溢れる
君の隣 君の温もり 私の涙が空に溶けた


2人の繋いだ手は まるで遠い日の温度
記憶を辿り そっと 絡まり解いた
さようなら 伝えられない 悲しみに溺れる

2人の並んだ影は まるで遠い日の幻想
記憶を辿り そっと 視線を背けた
さようなら 伝えられない 悲しみに飲まれる

傍にいたい でもそれは叶わない
迷子になった この悲しみ
好きの言葉の代わりに そうだ
「君に会えてよかった」

ふと目が合った あの瞬間 きっと別れは始まっていた
君に和えて 幸せだったよ
過ぎ去った日 想いが溢れる
忘れないと 忘れられない 2人の悲しみいつ消えるの