「ねえ、お母さん」

「何?」

「月曜日、出掛けてくる」

「出掛ける?」

「うん。いいでしょ?」

「出掛けるって、どこに?」

「M市のショッピングモール」

「そんなところに行くの?どうやって行くつもり?電車?」

「うん」

「何しに行くの?」

「……買い物、かな」

「買い物?何を買うの?」

翔羽(とわ)の誕生日プレゼント。買いたい物が、そこにしか売ってないの」

「売ってないの、って……。1人で行くつもり?」

「ううん」

「誰と?」

「クラスの子」

「だから誰?名前は?」

「言っても、お母さんには分かんないよ」

秋穂(あきほ)ちゃんじゃないの?」

「違う」

「じゃあ誰?」

「だから分かんない、って」

「いいから言いなさい」

「……くん」

「え?」

今原(いまはら)くん」

「今原くん?男の子?」

「うん」

「男の子と、2人?」

「うん。あ、ついでに、花火も一緒に見たいって思ってる」

「花火?」

「うん」

「会場に行くの?」

「会場じゃない。学校の敷地内に、花火がよく見える場所があるから、そこから見るだけ」

「花火は何時までなの?」

「7時半から9時」

「9時?そんな時間まで、その今原くんっていう子と一緒にいるの?」

「うん」

「今原くんって誰なの?」

「だから、同じクラスの子だよ」

「それだけ?」

「それだけ」

「秋穂ちゃんとか他の子は?」

「いない」

「同じクラスの男の子と、そんな時間まで2人きり?」

「変な言い方しないでよ。別にいいでしょ?」

「……だったら、お母さんも行こうかな?」

「……はい?」

「お母さんも、こっちに来てから1度も花火見てないし」

「……いや、あの、お母さん?」

「それなら安心できるし」

「待って、お母さん」

「何?」

「お母さんがどこで何をしててもいいけど、私たちの周りをウロウロするのはやめて!放っておいて!」

「何よ、その言い方。そりゃ、心配はするでしょ?男の子と一緒に夜遅くまでなんて……」

「なんで?別に男の子と仲良くてもいいでしょ?」

「でも――」

「……なの」

「え?」

「今原くんは、私の好きな人なの!私が一方的に片想いしてる人なの!入学式の日からずっと気になってて、ようやくチャンスが来たの!」

「菜月羽……」

「こんな機会もうないの!夏休み前の最後の思い出になるかもしれないの!だから、私の好きにさせて」

「……」

「お願いします」

「……分かった。ただ、約束して。何かあったら連絡すること。あと、時間は9時まで。お母さんが学校に迎えに行く。それより遅くはだめ。いい?」

「……うん、約束する」

☆☆☆