「超能力者にでもなったつもりかよ」

近くで声が聞こえた。しかし、誰に向けられたものなのかは分からない。

菜月羽(なつは)は、そっと、手紙から顔を上げる。

ひとつだけ、確かなことがあった。

それは、声の持ち主。

間違えるはずがない。

忘れることなんて出来ない。

ずっと、ずっと、ずっと、想い続けていた。

待っていないはずだった。

期待なんてしていないはずだった。

でも、きっと、心の片隅で微かに願ってしまっていたのだろう。

「なんで……」

そこには冬杞(ふゆき)がいた。

「居場所も分からないような奴に、どうやって俺の声が届くんだよ」

これまで聞いたことのないような、大きな声だった。顔は真剣そのもので、じっと菜月羽を睨み付けている。しかし、不思議と恐怖は感じない。むしろ、隠し切ることの出来ない愛が滲み出ている。

頭で考えるより先に身体が動いていた。

冬杞のもとへ走り寄る。

2つの影が1つに重なった。

「ごめんなさい……」

強く強く、2人は互いを抱きしめた。

そして。

「もう、泣いていいよ、菜月羽」

溢れ出る涙を、菜月羽は堪えることが出来ない。けれど、菜月羽にはまだ、伝えなければいけないことがある。

「冬杞くん、ありがとう」

☆☆☆