「アンタとの思い出なんて、戦ったことぐらいしか無いわよ」

「いや、別に私との思い出とは言ってないんだが……」

 マルクエンに言われて、ラミッタは顔を赤くした。

「いやっ、そのっ!!」

「ははは」

 笑うマルクエンにラミッタは怒る。

「何よ!!!」

「いや、なんでもない」

「なんでもなくは無いでしょ!?」

 そんな事を言い合い、しばらく静寂が訪れ、互いの体温を感じ取っていた。

「あのさ」

「ん? どうした」

 ラミッタがポツリと話し、マルクエンが反応する。

「アンタは、元の世界に戻りたいわけ?」

「あぁ、そうだな。イーヌ王国が恋しいよ」

「ふーん……」

 ギュッと毛布を掴むラミッタ。

「ラミッタはどうなんだ?」

「私は……。別に、国に忠誠なんて無かったから。お金が稼げて、剣を振るえるから軍人やっていただけ」

「そうか……」

 またも、しばしの沈黙。

「元の世界、戻ったらまた敵同士ね」

 ラミッタの言葉にマルクエンは何も返せず、考えた。

「そうなるな……」

「戦争、まだ続いているのかしら?」

「私もラミッタと戦った後、寝込んでそのまま意識が無くなったからな。わからない」

「そう……」

 ラミッタは突如ニヤリと笑い、マルクエンに言う。

「次は負けないから!!」

「ははは、そうか……」

 マルクエンは力無く笑うことしか出来なかった。

 吹雪はまだ続く。

「何でさ、私達、戦っていたんだろうね」

「どうした、急に……」

 ラミッタはしおらしく、語り始める。

「だってさ……」

「私は国の為だった。ルーサを統合して国の繁栄。国土の防衛力の強化の為だ」

「ルーサは自国を守る為だけど、私としてはどうでも良かった」

 ゆっくりと、ラミッタは話し続ける。

「結局はさ、国のお偉いさんが決めて、戦って死ぬのは私達兵士」

「……、そうかもしれんな」

 今度はマルクエンから語り始めた。

「私は、国に忠誠を誓って戦ったが。ルーサから見たら侵略戦争だと思われても仕方が無かっただろう」

「そんな事、国のお偉いさんに聞かれたら処罰よ、騎士様」

 ラミッタに言われるも、マルクエンは話し続ける。

「最大の宿敵だと思っていたお前とも、話し合えばこうして分かり合えたのかもしれないのにな」

「あら、分かり合えたと思っていたの?」

「違うのか!?」

 驚いて恥ずかしがるマルクエンを見てラミッタは笑った。

「よし、元の世界の事はお終い!! こっちに来てからの事でも話しましょ」

 話題を切り替えられて、マルクエンはずっと聞いていなかったことを尋ねてみる。

「ラミッタは……。こちらの世界に来て、どうやって冒険者になったんだ?」

「あぁ、そう言えば言っていなかったわね」

 ラミッタは思い出しながら語る。

「そうね、気を失ったらトーラの村にある森に居たわ」

「私と同じだな」

「そこで、仕方がないから動物と魔物を狩りながら生活していたんだけど」

(たくま)しいな!?」

「騎士のお坊っちゃまとは違うのよ」

 ふふふとラミッタは笑う。

「それで、偶然森に来ていた冒険者に見つかってね。色々と話を聞いて、それで、状況と照らし合わせてここが別世界だって思ったわ」

「私も、シヘンさんと出会ったのがきっかけだったな」

「冒険者ギルドまで付いて行って、ギルドマスターと話をしたら、異世界からの勇者だの魔王のおとぎ話だの聞かされたって訳」

「そうだったのか……」

 マルクエンはそう一言だけ言った。

「まぁ、最初は魔王退治なんて興味無かったし、アンタが来て驚いたけどもね」

「そうだな、私もラミッタが居て驚いたよ」

 ふと、気になった事をマルクエンは質問してみることにする。

「ラミッタは、魔王討伐に乗り気じゃないのか?」

「この世界の生活にも慣れたしね。悪い世界じゃないわ。ただ、もう魔人も襲ってきているし、魔王も見逃すわけ無いでしょ? だから選択肢は残されちゃいないわよ」

「そうか……」

 吹雪の音が段々と薄まってきた。

「収まったか? 外を見てくる」

「宿敵!! その、気を付けてよね……」

 マルクエンは、ただ外を見るだけだったが、毛布で半分顔を隠したラミッタが言う。

「あぁ、心配するな!!」

 扉を開けると、(まばゆ)い光が差し込んだ。目を細めるマルクエンは眼前に広がる光景に驚愕した。

「な、なんだこれは!?」

「ど、どうしたのよ宿敵!?」

 慌ててラミッタが立ち上がり、扉の先の光景を見る。

 二人共その景色に言葉を失った。

 先程までの一面の銀世界は見る影も無く、一面の緑と花が咲き渡る大地が広がっていた。

「綺麗……」

 思わず呟くラミッタ。

「あぁ……」

 ラミッタの顔を見ると、目を輝かせて外を眺めていた。

 その瞳は、一人の純粋な少女の様で、思わずじっと見つめてしまうマルクエン。

「って、見惚れている場合じゃないわ!!」

「い、いや、見惚れてなんか」

「いきなりこんな事になるなんて、やっぱりこの塔は只者(ただもの)じゃないわ!!」

「あっ、そっ、そうだな」

 景色の事かとマルクエンは安堵した。

「ともかく、次に変な事が起こる前に、今のうちに上の階へ行く方法を探すわよ」

「わかった!!」

 動揺を悟られぬようにマルクエンは防具を身に着け、準備をする。