「うーん……。全力で戦うとか……?」

「まぁ、油断せずに戦うことも大事だわ」

 片目を閉じてそう返した後にラミッタは言う。

「大事なことはね。死なない事よ」

 そう言われて、シヘンはハッとする。ケイが思わず大きな声でリアクションをした。

「し、死なないことッスか?」

「そうよ、とにかく死なない事」

 マルクエンは黙ったまま見守っている。

「そしてね、それよりも大事なのは、命を賭けても良いと思えた時。覚悟を決める事よ」

「覚悟……ですか」

 マルクエンとラミッタの過去を知る二人には、とても重い言葉だった。

「まぁ、今のあなた達は死なない事を考えると良いわ」

 そう言い終えると、ギルドからの使者が4人の元へやって来る。

「勇者マスカル様がお見えです!」

「あら、キザ勇者のお出ましね。それじゃ行こうかしら」

「あぁ、そうだな」

 マルクエンとラミッタが歩き出し、遅れてシヘンとケイも付いてきた。




 ギルドへ着くと、すぐさま応接室へと案内される。ノックをして部屋に入ると勇者パーティが椅子に座り待っていた。

 勇者マスカルと、屈強な剣士ゴーダ。魔道士のアレラだ。

「これはこれは、ようやくお会いできましたねラミッタさん」

 立ち上がり、マスカルは両手を広げながら言い、その後右手を差し出して握手を求める。

 ラミッタは真顔でそれに応じると「どうぞお座りください」とソファに座るよう促された。

 ギルドマスターが人払いを済ませ、部屋の外に話し声が漏れないよう音消しの魔法を使う。

「さぁ、これで気兼ねなく話せますね。ラミッタさんと……マルクエンさん、シヘンさんにケイさんでしたか」

 マルクエン達が「はい」と言い軽く頷くと、マスカルは笑顔を消して、急に真面目な顔する。

「さて、お聞きしたいこと、いや。確認をしたい事があります」

 すっとラミッタとマルクエンを見据えてマスカルが言った。

「お二人は……。この世界の人ではありませんね?」

 薄々察していたラミッタはあまり驚きもしなかったが、マルクエンは肝を冷やした。

「えっと……」

 言葉に詰まるマルクエンの代わりにラミッタが言い放つ。

「はい、その通りです」

 その返答を聞いてマスカルは目を閉じた。

「やはり、そうでしたか」

 少し間をおいて、マスカルは話し続ける。

「失礼ですが、お二人のことを少々調べさせて頂きました」

 固唾を飲むマルクエンと、興味無さそうにしているラミッタ。

「トーラの冒険者ギルドマスターに勇者の名を使い、申し訳ないのですがお話をお聞きしました」

「えっと、それで……」

 マルクエンは緊張しながら尋ねた。

「大体の事はわかりましたが、お二人からも直接お話を伺いたい」

 ちらりとラミッタを見るマルクエン。彼女は軽く頷く。

「それでは、私達が……。この世界に来た経緯(いきさつ)をお話します」

 マルクエンとラミッタは語る。元の世界で敵対していたこと。相打ちのような形になり死んだこと。

 目が覚めたらこの世界に来ていたこと。魔人と戦ったこと。

「なるほど、事情は分かりました」

 荒唐無稽(こうとうむけい)な話であったが、マスカルは疑うこと無く全てを信じた。

「一つ質問をさせて頂いて良いでしょうか? こちらの世界で、何か元の世界では無かった能力に目覚めた。なんて事はありませんでしたか?」

 ふむ、とマルクエンとラミッタは考え、一つ心当たりがある事を思い出す。

「確か……。魔人と戦った時に、体が青く光り、物凄い力が湧いてきた時がありました」

 マルクエンは水の神様の祠で起きた戦闘の事を話した。

「やはり。お二人は異世界からの勇者である可能性が高い」

「勇者ですか!? 私が?」

 マルクエンは驚きの声を上げる。

「えぇ、そこでお二人には、とあるお願いがあります」

「何でしょうか?」

 ラミッタは面倒事が始まる予感を感じながら返事をした。

「ここから数日歩いた場所に、試練の塔と呼ばれる。選ばれし者のみが入れる聖域があります」

「試練の塔……?」

 頭が追いつかないマルクエンはその単語だけを呟く。

「はい、選ばれし者がそこで試練を乗り越えると、人ならざる力が手に入ります」

「本当ですか!?」

「えぇ、私は残念ながら試練の塔へ入ることが出来ませんでしたが、歴代の勇者の中には、導かれし者も多く居たと聞きます」

 とても信じられないような話だが、信じるしかなさそうだ。

「お二人ならきっと試練の塔へ入れるはず。そこで力を付け、私とともに魔王と戦って頂きたいのです」

 マルクエンとラミッタは顔を見合わせ、頷く。

「わかりました」

 ラミッタに言われると、マスカルは顔を明るくし、笑顔を作った。

「良かった。本当に良かった。ありがとうございます」

 マスカルは立ち上がり、最後に言葉を残す。

「出発は明日の7時に。冒険者ギルド前にてお待ちしております」

 部屋を出ていく勇者パーティー。ラミッタは紅茶を飲み干して立ち上がる。

「さーて、お話も終わったことだし、特訓に戻るわよ」

 話を聞いていて、なにか言いたげなシヘンとケイを遮って言うと。スタスタと出口まで歩いていく。