別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

「我が宿敵!! あなたに、私の夫となる権利をあげるわ!!」

 一人の女が赤面しながら男を指差し言う。

 そう、王国騎士『マルクエン・クライス』は、敵対していた魔剣士の女『ラミッタ・ピラ』に決闘ではなく、結婚を。プロポーズを受けた。




 騎士と魔剣士が剣を構え、対峙していた。互いの背には軍勢が半円状に並んでいる。

 一人の名は『マルクエン・クライス』と言い王国騎士の男だ。前髪をかき上げた少し長めの金髪に重厚な白い鎧を身に纏っている。

 もう一人は『ラミッタ・ピラ』魔剣士の女だ。肩より少し長めで切りそろえた茶髪、黒を基調とした軽装備で、左肩に赤い肩当て。

 互いに別の国に仕えており、その国同士は戦争の真っ只中だった。

 マルクエンとラミッタには誰も近付かない。

 いや、近付けないと言う方が正しい。不用意に近付けば戦いに巻き込まれる可能性があるからだ。

 二人は幾度も戦場で対峙していたが、その度に邪魔が入っていた。大抵どちらかの軍の撤退により、決着は付かないままだったのだ。

 だが、今日は違う。この戦争の最終決戦の日である。

「今日こそ、どちらが強いか決めようではないか」

 マルクエンが声を張って言うと、ラミッタもニヤリと笑って言葉を返す。

「えぇ、そうね。我が宿敵よ!!」

 そう言い終わると同時にマルクエンは体の強化魔法を使い、相手の元へと駆け出した。ラミッタは魔法の火の玉を数十発打ち出す。

 それらを全て(かわ)して、マルクエンはラミッタを斬りつけるも、剣で弾かれ距離を取られる。

 その隙にラミッタは雷の魔法を数発マルクエンに放つ。魔剣士対策で鎧に抗魔の魔法を張っていたので、全身がビリビリとしたが、絶命はしなかった。

 ガキンカキンと剣がぶつかる音。魔法の火、雷、風の刃が放たれる音。力強く大剣を振るうマルクエンとは対照的にラミッタは宙を舞うように戦っていた。

 周りの兵は戦闘中という事も忘れ、その戦いに見惚れている。永遠に決着が付かぬのではないかと思われたその時、動きがあった。

 マルクエンの剣がラミッタの頬を深く斬り裂いた。赤い鮮血が流れ始める。

「やるじゃない、流石は我が宿敵ね!!」

 次はラミッタの風の刃がマルクエンを襲う。とっさに避けたが、左太ももと右腕に傷を負った。

「私は二発よ、どうかしら!!」

 ニヤリと笑ってラミッタが言う。マルクエンも同じく笑い返した。

「まだまだ、ここからだ!!」

 二人はズタズタになるまで斬り合った。(いた)る所から血を流し、立っているのが不思議なぐらいだ。

 そこでマルクエンが叫ぶ。

「そろそろ終わりだな」

「えぇ、そうね!!」

 ラミッタも言葉を返し、魔法の火の玉と共に突っ込む。

 互いに最後の一撃を食らわせた。炎と砂埃が消え去った後に見えたのは。

 ラミッタの胸を貫いて刺さるマルクエンの大剣だった。

 マルクエンの陣営、イーヌ王国の兵たちから歓声が上がる。

「ラミッタ、敵ながら見事だった……」

 マルクエンは高揚感の次に深い喪失感を感じた。

「別の形で会えていれば、我らは良き友になれただろう……」

 戦争は結局イーヌ王国が勝ち、ラミッタの属するルーサという国は負けた。

 その勝利の凱旋にマルクエンは棺の中からの参加になる。ラミッタとの戦いで負った傷が原因で、敗血症を起こし、マルクエンは帰らぬ人となった。

 勝利国のイーヌ王国ではもちろん。敗北したルーサでも、二人の長い戦いと結末は語り草になった。吟遊詩人の歌の中では定番の物となり、長きに渡り語り継がれる。

 ここでこの二人の物語は終わりになる。はずだった。



(イラスト:あいかX先生)


 マルクエンは森の中で目を覚ました。うーんと唸った後、飛び起きる。

「なっ、なんだ、ここはどこだ!?」

 場所もそうだが、自分の体を見て驚く。アレほどまでズタズタだった我が身は、痛む箇所が一つもない。

「これは何だ、一体何なのだ!?」

 周りを見るも、何も答えは見つからない。そこで思った。ここは所謂(いわゆる)あの世、死後の世界なのではないかと。

「死後の世界……、本当にあったのか」

 そんな事を考えていた時、何処からか女の叫び声が聞こえた。どんな状況か知らぬが、騎士として、ただならぬ声を見過ごすことは出来ない。

 マルクエンは走り、声の方へ向かう。そこには、下級の魔物であるゴブリンに囲まれた女性が居た。

 今にも襲われそうな女性の前に立ち、剣を構える。

 飛びかかるゴブリンを一刀両断し、重い大剣を振るって数多もの敵を斬り伏せた。

 あっという間に辺りはゴブリンの死体まみれになり、マルクエンは女性に声をかける。

「大丈夫ですか? お怪我は?」

「あっ、ありがとうございます!!」

 地面にへたり込んでいる長いブロンドヘアの女性に手を差し伸べ、立たせた。

「あの、あなたも冒険者ですか?」

 あなたも、という事はこの女性は冒険者なのかとマルクエンは考える。

「いえ、私は騎士です。それとお聞きしたい事があるのですが……。その、不思議に思われるかもしれませんが、ここは一体何処なのでしょう?」

 キョトンとした顔で女はマルクエンを見た。

「あ、いえ、失礼。まだ名を名乗っていませんでしたね。私はマルクエン・クライス、イーヌ王国の騎士です」

「わ、私はシヘン・クーケと言います!」
 女の名がわかった所で、笑顔を作りマルクエンは言う。

「シヘンさんですか、よろしくお願いします」

「い、いえ、その、マルクエンさんのお国の……」

 シヘンは先程言われた国名を忘れてしまい、察したマルクエンがもう一度言う。

「あぁ、イーヌ王国です」

「そう! イーヌ王国……。ごめんなさい、聞いたことがありません」

「そうですか……」

 イーヌ王国は決して小さな国ではないので、名を知らぬという事は、よほど遠い地なのか、もしくは本当に死後の世界なのか。

「あの、どうしてマルクエンさんは森に?」

 シヘンに聞かれ、マルクエンはうーんと悩み言った。

「えぇ、とても信じられない話なのですが、気付いたらここに居たのです」

「そうなのですか、不思議ですね……。あっもしかして記憶喪失ってやつなのかもしれませんね」

 シヘンが言った後に「そうだ」と両手を顔の前で合わせる。

「近くの村の冒険者ギルドへ行きませんか? そこならばきっと誰かマルクエンさんの事か、お国の事を知っているかもしれません!」

 確かに、このまま森に居ても(らち)が明かないなと思ったマルクエンはその提案を受け入れることにした。

「分かりました。是非ご案内をよろしくお願いします」

「はい!」

 笑顔を作り、シヘンは元気よく返事を返してくれる。

 マルクエンは道中の会話で分かった事がある。この国は『コニヤン』という名であるということ、その中でもここは辺境の土地だということ。

 シヘンは駆け出しの冒険者で、薬草集めをしていたら、急に現れたゴブリンの群れに襲われたということ。

 後は他愛もない話をしていると、村へと付いた。

「あそこがトーラの村です」

 シヘンが指差す方を見ると、のどかな村が見えた。家は四、五十ほどあり、人もポツポツと歩いている。

「良い村ですね」

「ありがとうございます! 私の生まれ故郷なので嬉しいです」

 村の中へ行くと、立派な建物が目に入った。どうやらそこが冒険者ギルドらしい。

 ギルドの中に入ると、冒険者らしき女がシヘンに声を掛けた。

「あれ、シヘンと……。そちらのイイ男はどちら様っすか?」

「マルクエンさんです。さっきゴブリンに襲われた所を助けて貰いました!」

「ゴブリンだって!? 最近、魔王のせいでこの辺りも物騒になったねー。マルクエンさんか、あざっス!」

 女がそう言うと、マルクエンも言葉を返す。

「いえ、騎士として困っている方は見過ごせないだけです」

「あら、冒険者じゃなくて騎士さんっスか。でもこんな村に騎士さんが何の御用で?」

「えぇ、どうも困った事になりまして」

 マルクエンはショートカットで銀髪の女に事情を話した。

「そっかー、ここに来るまでの記憶が無いっすか。それに、私もイーヌ王国ってのは聞いた事がないっスね」

「そうですか……」

 その返事に、マルクエンは落胆する。

「記憶が無いってのなら一応、冒険者として登録されているか確認してみたらどうっすかね」

 女は受付を指さして言う。

「そうですね、万が一って事もあるでしょうし」

 マルクエンは言われるがまま、ダメ元でシヘンと共に受付へと向かった。

「こんにちは、シヘンさん。依頼はどうなりましたか?」

「えぇ、依頼はこなせたのですが……」

 シヘンは森でゴブリンに襲われたこと、マルクエンに助けて貰ったことを話す。

「そうでしたか……。森の依頼も受付のランクを上げないといけませんね。そして、冒険者を助けて頂きありがとうございます。マルクエンさん」

「いえいえ、当然のことです」

 頭を下げる受付嬢に、マルクエンも軽く頭を下げた。

「そして、マルクエンさんですが、冒険者には登録されていないですし、お見かけしたこともありませんね」

「そうですか」

 それはそうだとマルクエンは思う。それならば何故、どうやって自分はあの森に居たのだろうかと考える。

「さて、これからどうしたものか」

 受付を離れ、ギルドの椅子に腰掛けてマルクエンは独り言を言う。

「とりあえず、マルクエンさんお腹空いていませんか? ここは食事も出しているので、良かったらご馳走させて下さい!」

「いえ、そんな訳には」

 と、言いかけたが、確かに腹は減っていた。だが、この国の通貨は持ち合わせていない。

「すみません、シヘンさん。お金は後でお返しするので、お言葉に甘えても良いでしょうか?」

「もちろんです! あと、お金は要りませんよ」

「ですが……」

「いーじゃないっスかマルクエンさん。奢ってもらいましょうよ」

 さきほど話していた女もマルクエンの隣に座ってそう言った。

「名前言ってなかったっスね。私はケイ! ケイ・ゴカークっす」

「ケイさんですか。よろしくお願いします」

 名前を呼ぶと、ケイはニカッと笑う。そんな時、冒険者ギルドの扉が開き、人が入ってきた。

「お、アレは期待のルーキーっすね」

 そう言われ、マルクエンはその方向を見る。思わず声が出て立ち上がった。見間違えようが無い。あの顔、あの格好は……。

「魔剣士ラミッタ!?」

 その声に期待のルーキーはマルクエンを見て叫ぶ。

「え、は? わ、我が宿敵ー!!!?」

 ギルド内は静まり返った。皆がラミッタとマルクエンに注目している。
「お、お前、生きていたのか!?」

 マルクエンは動揺して言った。同じ様に焦るラミッタも言葉を返す。

「いや、まって、宿敵、なんでアンタがここに!?」

 互いに混乱し、上手く言葉が出て来ない。代わりにシヘンがマルクエンに声を掛けた。

「お知り合いなんですか?」

「い、いえ、知り合いというか、知ってはいるのですが」

「えー、何スか? もしかして痴話喧嘩とかー?」

 ケイはにやにや笑いながら言った。マルクエンは顔を赤くして言葉を返す。

「いや、決してそんなものでは」

 そんなやり取りをしていると、村人が血相を変えて冒険者ギルドに入ってきた。

「た、大変だ!! ゴブリンと魔物の群れが村に襲いかかってきた!!」

 その言葉を聞くと、ラミッタは一気に凛とした顔になり、外へと飛び出す。

「ま、待てラミッタ!!」

 マルクエンもその後を追って村の外へと走っていく。

 一緒に付いてきたシヘンとケイはその光景を見て絶望した。

「な、なんスかこの数は!!」

 思わずケイはそう言う。百にも及ぶゴブリンと、その後ろにはカニや犬、カマキリの魔物が続いていた。

 村には衛兵が三人いるが、とても太刀打ちできないだろう。それどころか、村にいる冒険者達を合わせても無理だ。シヘンは杖を強く握ってポツリと言う。

「さっきのゴブリンは……、もしかして先遣隊だったのでしょうか」

「そうかもしれませんね」

 マルクエンが大剣を引き抜いてシヘンの言葉に答える。その正面ではラミッタが魔物の群れと対峙し、振り返らずに言った。

「宿敵!! 一時休戦よ!! アイツ等をやるわ!!」

「あぁ、分かった!!」

 その提案にマルクエンは同意し、二人は魔物の群れに走っていく。

「マルクエンさん!! いくらマルクエンさんが強くてもこの数は!!」

 シヘンは止めようとマルクエンの背中に叫ぶが、止まらない。

 敵に近づいたラミッタは炎の玉を左手から打ち出す。着弾すると、そこを中心に大きな爆発が起きた。吹き飛ぶゴブリン達。続いて雷の魔法で感電させ絶命させる。

「うおおおおお!!!」

 雄叫びを上げながらマルクエンはまるで小枝を振り回すかのように大剣を振るい、次々とゴブリンと魔物を切り裂いていく。

 冒険者も衛兵も、その圧倒的な力を眺めることしか出来なかった。

 ものの十分程度で村を襲撃した群れは壊滅してしまう。皆、言葉を失っていたが、ケイが最初に言葉を口に出す。

「マジか、マジっスか!?」

 白昼夢のような光景にそんな感想しか出てこなかった。

 だが、段々と状況を理解した者達から歓声が上がる。そんな注目の的であるラミッタはマルクエンに声を掛けた。

「どうやら、亡霊じゃないみたいね」

「お前こそ、本物みたいだな」

 二人は互いにニヤリと笑い顔を見合わせた。

「また一戦やり合いたいものだけど、宿敵。あなたはこの世界に来たばかりかしら?」

 この世界という言葉が気にかかったが、マルクエンは言葉を返す。

「あぁ、気付いたら森の中で寝ていた」

「私が色々説明してあげるわ」

 村へと歩みだすラミッタの後を、マルクエンは剣を仕舞って着いていく。

「ラミッタ殿、流石でした。本来であれば我々衛兵が戦わなければならないものを……、情けない」

「いえ、良いのですよ」

 衛兵に笑顔でラミッタは返事をする。

「それで、そちらの方は冒険者でしょうか?」

「いや、昔ちょっとありましてね」

 適当にはぐらかしてラミッタは冒険者ギルドに向かう。マルクエンの元にシヘンとケイもやって来た。

「マルクエンさん、やるっスねぇー!!」

 ケイに言われると、マルクエンは頭をかいた。

「そんな、大したことではありませんよ」

「マルクエンさん、お怪我は!?」

「シヘンさん。お気遣いありがとうございます。怪我はありませんよ」

 あんな大群相手で傷一つ無いことに、シヘンは驚いていた。冒険者ギルドに戻ると、中はざわつく。

「おい、さっきの男だ」

「何モンなんだアイツ……」

 マルクエンを見ると冒険者たちは口々に言っていた。そんな中、ラミッタとマルクエンの元に老人の男が歩いてくる。

「先程の戦いを見ていました。ラミッタさんは流石の活躍で。そして、そちらの男性は……?」

 老人でありながら鋭い眼光でマルクエンをちらりと見る。

「私は、マルクエン・クライスと申します。イーヌ王国で騎士を務めています」

「イーヌ王国……。あぁ、ラミッタさんが前に(おっしゃ)っていたお国ですか」

「宿敵、ギルドマスター殿も交えて話がしたいんだけど。我々が置かれた状況についてね」

 ラミッタが言うと、マルクエンは頷いた。今はそれしか選択肢が無いだろう。

「わかった」

 ギルドマスターに付いていくと、二人は奥の応接室へと案内された。

「どうぞ、おかけ下さい」

 マルクエンとラミッタはギルドマスターの対面にあるソファに隣同士で座る。マルクエンはラミッタの顔をちらりと流し見た。

 あの戦場でしか会わなかった彼女が隣で座っているというのは何とも奇妙な感覚だ。

 そして、そのラミッタが話し始める。

「さて、私は長い話が苦手だから単刀直入に言うわ宿敵。今いるこの世界は、私達がいた世界と別の世界なのよ」

 真面目に話す顔を見て、冗談ではないのだろうとマルクエンは思ったが、理解が追いつかない。
「待ってくれ、別の世界? どういう事だ!?」

「そのまんまの意味よ。この世界にはルーサもイーヌ王国も存在しないわ。別世界なの」

「そんな……、信じられん……」

 マルクエンは目を丸くして言う。

「私だって、死んだと思ったら生き返って、しかも見知らぬ土地よ。最初は信じられなかったわ」

 ラミッタは右手を開いて話すと、そうだと思い出したように続けた。

「そう言えば、宿敵。あなたもこの世界に来たということは死んだのかしら?」

「あぁ、恐らくな。お前に付けられた傷が原因で高熱を出し、気が付いたらあの森へ居た」

 その言葉を聞いてラミッタはニヤリと笑う。

「そりゃ十中八九死んでるでしょうね。ならば勝負は引き分けって所かしら?」

「あぁ、そうだな」

 あっさりとマルクエンは引き分けを認め、つまらなそうにラミッタは前を向く。

「私も、正直ラミッタさんのお話は半信半疑でした。ですが、お二人ほどの実力者がつまらない嘘を付いているとは思えない」

 ギルドマスターは手を前で組んで言う。

「そうだ! 元の世界へと戻る方法は無いのでしょうか?」

 マルクエンが尋ねると、ギルドマスターは首を横に振る。

「残念ながら……。ですが、古い伝承に、こういった物があります」

 ギルドマスターはそう前置きをして、語りだす。

「魔王現れる時、異なる世界から勇敢なる戦士が現れるだろう。その者は魔王を討ち滅ぼし、去っていく。と」

「魔王? ですか」

 いまいちピンときていないマルクエンにラミッタは言い放つ。

「居るのよ。魔王」

「そんな、魔王なんておとぎ話の世界だろう? 魔物ならともかく……」

「居るの。この世界には」

 はぁーっとため息をついてラミッタが言った。

「本当か!?」

「ラミッタさんの言う通りです。ちょうど一年前、魔王が現れました。やがて、魔王は魔物を束ね、人類に(あだ)なすようになりました」

 そこまで言ってから、間を置いてギルドマスターは話し続ける。

「今回の村への襲撃も、恐らくは魔王配下の者の仕業でしょう」

 信じられない事の連続でマルクエンは必死に頭を回す。

「と、ともかく。その、伝承が本当であれば、その魔王とやらを倒せば元の世界へと帰れると?」

 話に食いつくマルクエンとは対照的に、出された茶を一口飲んでラミッタが言った。

「可能性はあるんじゃないかしら?」

 そんな熱くなるマルクエンにギルドマスターは言いづらそうに話す。

「ですが、魔王はとても強く、国が数千の兵士を送り込んでも倒せなかったと聞きます。いくらお二方が強くても魔王相手では……」

 マルクエンはその話を聞いてガクリと肩を落とす。魔王とはどんな存在か知らぬが、勝てるだろうかと。

「しょげないの宿敵。この世界も案外暮らしやすいわよ」

「私は、私には、イーヌ王国を守るという使命がある。何としても戻らなくてはならない」

「そう、それじゃやる? 魔王討伐」

 まるで少し出かけて用事を済ますかのようにラミッタは言う。

「あぁ、そこでラミッタ。お前に提案がある」

「なにかしら?」

「魔王を倒すまで休戦を申し込みたい」

 言われ、ラミッタは大声を出して笑った。

(かしこ)まって、何を言い出すかと思えばそんな事ね。いいわ、どうせルーサもイーヌも無いし。戦う理由も無いしね」

「そうか、ありがとう。心強いよ。よろしく頼む」

 マルクエンはそう言ってラミッタに手を差し出す。

「あなた、こういうの恥ずかしくないの?」

 ラミッタは少し赤面してそっぽを向き、マルクエンの手を握った。

「それで、魔王はどこに居るのでしょうか?」

 そうマルクエンが言うと、ギルドマスターが答える。

「居場所を転々としております。今もどこへ居るのやら……」

「魔王って何かこう……、城でも建てて、そこにずっと居るというイメージでしたが」

 マルクエンは自国のおとぎ話を思い出していた。そこでラミッタが提案をする。

「魔王を倒したかったら、まずは配下の魔人や魔物を倒す所からね。そうすりゃ怒って出てくるだろうし、戦力も()げるわ」

「そうか……、分かった。他の案も無いしな」

 そう言って何かを考え込むマルクエンに、ギルドマスターが言った。

「そうそう、マルクエンさん。異世界から来たことは内密にしておいた方が良いでしょう」

「何故ですか?」

 キョトンとした顔で言うマルクエンにラミッタが呆れて言う。

「あなた、腕っぷしは強いのに頭は残念ね。会う人間にいちいち説明しても信じて貰えないどころか、大丈夫かコイツって思われるわよ?」

「まぁ……、確かに」

「それに、万が一にも魔王が伝承とやらを信じていたら、私達に総攻撃を掛けてくるわ。流石にそんなのは勝てないし、周りも巻き込むでしょ」

 ラミッタの言葉に納得したマルクエンは、そこまで頭が回らなかった自分を恥じた。

「わかった。ラミッタ、お前の言う通りだな」

「何か聞き分けが良すぎて不気味だね。あなた、戦い以外ではそんな感じなの?」

 話が終わった二人は応接室から出た。冒険者の登録証は上手いこと偽造してくれるらしい。

「まずは冒険者としてお金を稼ぎつつ、魔王の情報を集めるわ。ランクの高い冒険者じゃないと閲覧できない情報もあるし」

「そうなのか、わかった」

 そんな事を言った後、マルクエンは待っている間どうしようかと思っていると、シヘンとケイがギルド併設食堂の席に座っているのが目に止まった。

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