「とにかく、火を止めるわ」

 ラミッタは倍速の魔法を使い、一気に家まで駆けていく。

 水魔法の射程圏内に入ると、家に向かって打ち出し、消火を始める。

 マルクエン達が追いつく頃には火は(ほとん)ど消えていたが、見るも無惨な姿になってしまっていた。

「私って、こういう運命なのかしら……」

 小さく呟くラミッタ。

「ラミッタさん……」

 シヘンは心配そうに近付いた。ラミッタは悲しげな顔をしている。

 被害を確かめるためにマルクエン達は家だった場所へと入った。

 炎がすべてを焦がし、買った家具や、洋服といった思い出の品は消えている。

 ラミッタは足元に転がるマグカップを見付けて拾い上げた。

 それは複数の破片に散らばって、もうマグカップとしての使い道は無いだろう。

「ラミッタ……」

 そんな彼女を見てマルクエンは心配し、言う。

「マグカップは残念だったな、だが、また同じ物を買えば良いじゃないか!」

「っ!! そういう問題じゃない!!!」

 その発言はラミッタの怒りに触れてしまったようだ。

「ら、ラミッタ!?」

 動揺するマルクエン。ラミッタは背を向けてスタスタと歩いて行ってしまう。

「どこへ行くんだラミッタ!?」

「宿屋にでも行って寝る」

 取り残された三人。そこでケイが「あー」っと言いながらバツが悪そうに話す。

「マルクエンさん、今のはまずかったッスね……」

「なっ、私は何か怒らせるような事を言いましたか!?」

 そう焦るマルクエンに今度はシヘンが(さと)すように言った。

「マルクエンさん、あのマグカップはラミッタさんにとって特別な物だったんです。例え同じ物を買ったとしても、それが戻ってくる訳ではありません」

 そこまで説明され、マルクエンは「そうか、しまった」と項垂(うなだ)れる。

「ラミッタさんを追いかけましょう」

「えぇ、そうですね……」




 勢いよく飛び出したラミッタだったが、金は家と共に消え、今は無一文だった。それに魔人の襲撃で宿屋は空いていない。

 どうしようかと、喧騒の中の街を歩いていた。

 行く宛も無いので、冒険者ギルドへと向かってみる。事情を話せばどうにかなるかも知れない。

 冒険者ギルドの中も大騒ぎだった。そんな中でラミッタが現れると、気付いた冒険者達の視線を集める。

 スタスタと受付まで歩き、緊急で呼び出された受付嬢のミウに話しかけた。

「ミウ、私達の家が燃えたわ」

「ラミッタさん!! 探していたんですよ!? ……お家の件は残念ですが、ご無事でなによりです!!」

 そこまで言った後に、ミウは要件を話す。

「ギルドマスターがお呼びです。街の議会の方や、治安維持部隊の方も、ここへ向かっているようです。ところでマルクエンさん達は……?」

「ごめん、置いてきちゃった」

 ラミッタがそう言うと同時に、ギルドに来客があった。マルクエン達だ。

 受付まで歩いてくると、マルクエンがラミッタに話しかける。

「ラミッタ!!」

「何よ、付いてこないで」

「ラミッタ、さっきは済まなかった!! 私の発言は考えが足りなかった!!」

 そう言って頭を下げるマルクエン。それを見てラミッタは「はぁ」っとため息を付く。

「別に、私は気にしていないわよ」

 ラミッタは少し照れながら言った。

「それより、またお偉いさんとお話よ」






 話は魔人について、これからの方針についてだった。

 やはり各地で魔人の脅威があり、マルクエン達には可能であれば、まだ街に居て欲しいと言われた。

 それを了承し、四人は仮の宿を案内された。

 部屋が空いていなく、四つベッドが置かれている部屋で我慢してくれとの事だ。

 四人は部屋のソファや椅子に座っていたが、会話が無い。

「なぁ、ラミッタ」

 最初に沈黙を破ったのはマルクエンだった。

「さっきの戦いで、私は冷静さを失うお前を見た。あんな事は私との戦いでも見たことが無い」

「なによ、私だって怒ることぐらいあるわよ」

 紅茶を(すす)りながらラミッタは目も合わさずに言う。

「確か『居場所を奪うやつは許さない』って言っていたな」

「なんでそんな事覚えているのよ。ド変態卑猥野郎」

 少し恥ずかしそうに、言葉尻をすぼめてラミッタは言った。

「ラミッタ、私はお前について何も知らないことばかりだ。もし大丈夫なら聞かせて貰えないか? あそこまで怒った理由を」

「私の過去なんて聞いてもつまらないわよ」

「それでも知りたいんだ」

 シヘンとケイはそのやり取りを黙って見ていた。

「私の過去、結構複雑よ、話したらお涙頂戴、同情頂戴って感じに聞こえて嫌なんだけど」

 そしてまた沈黙。しばらくしてラミッタが話し始める。

「わかったわよ。少しだけ話すわ」

 観念したのか、ラミッタは過去を少し語ることにした。

「私ね、赤ん坊の頃、孤児院の前に捨てられていたの。大量の金貨と一緒にね」

「そうだったのか……」

 マルクエンは真剣な眼差しでラミッタを見つめる。

「それでさ、私は孤児院で問題児に育ったの。これでも昔から喧嘩は強くて年上の男も泣かしていたわ」

「ラミッタらしいな」

 フフッとマルクエンは微笑んだ。

「食事もオモチャも、奪おうとする奴は許さなかった。馬鹿にしてくる奴もね。私は小さい頃から自分を守るために戦っていたわ」

 ふうーっとラミッタは息を吐く。

「その内、孤児院の先生にも疎まれて、私は13歳の頃に出ていったわ」

「そこからはいろんな街を放浪してたわ。お金は盗賊や女だからって襲おうとする輩を返り討ちにして奪ったわ」