しばらく時間が立つと、シヘンが紅茶を入れてくれ、茶請けのクッキーも出てきた。

「そ、それじゃあ、あの箱と魔人の襲撃について、どうするか考えるわ」

 ラミッタはマルクエンと同じデザインのマグカップを見てから、顔を赤くして紅茶を一口飲んだ。

「箱は冒険者ギルドが昼夜監視してくれているから、夜の番は必要ないみたいだな」

 夜に誰かが監視しなくて良いのはありがたかった。

「そうですね、後はいつ魔人が襲ってくるかッスね、すぐに来るのか、油断した所を襲ってくるのか」

「私はすぐに来ると思っているわ」

 ラミッタが言い切ると、マルクエンは疑問を持ち、(たず)ねる。

「どうしてそう思うんだ?」

「私が魔人だったら、軍隊が来る前にこの街を襲うわ」

「なるほど、確かに」

マルクエン達はラミッタのご(もっと)もな意見に納得した。

「とにかく、今はいつでも戦えるように備えるだけね」

「あぁ、分かった!」

 その日もやたら美味いシヘンの料理を食べて、マルクエン達は眠りにつく。




「おはようございまーす。マルクエンさん」

 シヘンが部屋のドアをノックし、マルクエンは目が覚める。

「おはようございます、シヘンさん」

 ここで迎える二度目の朝だ。うーんと伸びをし、着替えてから廊下に出た。

 一階では皆が先に待っており「遅いわよ!!」とラミッタに言われてしまう。

「悪い悪い」

 ハハッと笑いながらマルクエンは返した。皆で「イタダキマス!」と言って食事を始める。

「今日は街で魔人や魔王の情報を集めるわよ」

「了解ッスー。ってことは、まず冒険者ギルドッスか?」

「えぇ、そうね」

 食後の一服も終わり、マルクエン達は家を後にした。





「おはようございます! 皆さん!」

 ギルドでは受付嬢のミウが元気に挨拶をしてくれた。

「ちょうど良かったです! ギルドマスターと、この街の兵士長様からお話があるらしくって、ギルドの者がお家にお伺いしようかと思っていた所なんですよー」

「お話……?」

 ラミッタはそう呟き、何となく嫌な予感を感じ取る。

「お昼前、11時頃にお時間よろしいでしょうか?」

 時計を見ると、今は9時を回ったぐらいだ。

「わかりました。11時ですね」

 マルクエンはそう返事をする。2時間ほど時間が空いてしまうので、ギルド内で何か情報を集められないかと考えていた。





 約束の時間までもう少しとなる。結局、ギルド内で聞き込みをしても有力な情報が集まらなかった。

 逆に、マルクエン達は何処から来たのか、Dランクという噂は本当なのか? 魔人を追い払ったのは本当なのかと質問攻めに会ってしまう。

「マルクエンさん、兵士長様がお見えになられましたー!」

 ミウが声を掛けてきて、正直助かったとマルクエン達は思った。

 そのまま会議室へと呼ばれ、ギルドマスター、兵士長と対面する形で椅子に座る。

「皆様、ご足労いただきありがとうございます」

 兵士長が頭を下げ、マルクエン達も礼を返す。

「さて、早速本題に入らせて頂きたいのですが、軍隊が到着するのが大幅に遅れる見込みでして……」

 ラミッタはそんな事だろうと思っていたが、マルクエンは驚いて理由を尋ねる。

「それは……。どういったご事情でしょうか?」

「はい、どうやら各地で魔人の目撃情報が相次ぎ、また、この街に置かれた箱の様な物も設置されているようです」

「そんな……」

 シヘンは思わず言葉が漏れ出た。うーんと唸るマルクエン。

「困りましたね……」

「応援を要請しましたが、ここは王都からも遠く、各地での騒動が終わり次第という形になりそうです」

 それを聞いて、ラミッタが話し始める。

「要するに、私達だけであの箱をどうにかしなくてはいけないと?」

「はい、申し訳ありませんが……」

「私達ギルドも、勇者マスカル様に連絡を取り付けてみたのですが、別の町の箱を対応中との事でした」

 勇者マスカルの名を聞いて、あぁと思い出したマルクエン。あの一緒に食事をした男だ。

「冒険者ギルド、この街の駐在兵、治安維持部隊で連携して街を守っていく方針ではありますが……」

「あの箱や魔人の事はお任せ下さい」

 マルクエンの言葉に兵士長は安堵した。

「あなた方がいらっしゃるなら、本当に心強い」




 話し合いが終わり、マルクエン達はギルドを出た。

「あんな安請け合いして良かったの? 宿敵」

「放っておけないだろう? それに、魔人が向こうからやって来るならば、話は早い」

「まぁ、そうね」

 そんな事を言って4人は街をぶらつく。昼が近いので腹も減ってきた。

「お昼近いですし、何処かで食べていきませんか?」

「そうね、そうしようかしら」

 ケイの提案にラミッタは同意する。

「あの屋台通りなんてどうっスか? 前から気になってたんスよ!」

 昼になると屋台が一斉に現れる、この街の有名な観光名所のことをケイは言っていた。

「確かに、見て回るのも良いわね」

 そんな感じで話は(まと)まり、4人は屋台通りまでやって来た。

「おぉー、(にぎ)やかな場所ですね」

 活気の(あふ)れる通りには、食べ物屋から露天商まで様々な店が開かれている。

「それじゃ、何か目ぼしいものでも見付けましょ」

 ラミッタが言うと、マルクエンも「あぁ」と返事をし、人混みをすり抜けて見回った。