別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

 マルクエンとラミッタは修行に食らいつくスパチーを見届け、地下を出る。

 懐かしの客室に泊まり、その夜マルクエンは奇妙な夢を見た。

 どこかの森、ラミッタが焚火の前に座り、料理をしている。

「ねぇ、宿敵。鶏肉はよく焼かないとダメって、いつも私言っているわよね」

 マルクエンは頷いて返事をする。

「あぁ、腹を酷く壊すんだろう?」

 ラミッタはこう返す。

「鶏の逆襲がお腹の中で始まるわ」

 次にラミッタは鶏肉を焼きながらマルクエンへと視線を移した。

「カンピロバクター」

 聞き覚えのない言葉にマルクエンの頭には疑問符が浮かぶ。

「か、かんぴろ?」

 ラミッタがもう一度告げた。

「カンピロバクター。鶏肉に宿る悪魔よ」

「そのかんぴろばくたーってのは何なんだ? 悪魔……?」

 ラミッタは首を横に振る。

「私も知らないわ。でも、そう呼ばなきゃいけない気がして」

「そ、そうか……」

 肉は美味そうに焼けている。マルクエンは思わずよだれが垂れそうだった。

「もう良いんじゃないか?」

 そんなマルクエンをラミッタはキッと鋭い目で睨む。

「宿敵、死にたいのかしら? カンピロバクターを甘く見ない事ね」

 ラミッタはまた目の前の肉に視線を移す。

「中心まで75度以上で、1分以上。あの悪魔を倒すためよ」

 マルクエンは大袈裟だなと言う。

「そこまでする必要があるのか?」

 ラミッタは片目を閉じて答えた。

「あるわ。カンピロバクターに感染したら、2から5日後に悪夢が始まるわ。死ぬほどの腹痛、39度もの熱。止まらない下痢。血までお尻から出てくるわ」

 それを聞いたマルクエンはゾッとする。

「そんな……」

 ラミッタは話を始めた。

「恐ろしい話をしましょう。とある物書き、マッド↑キミハルはカンピロバクターの感染でさっき言った症状全てを味わったわ。治るまで実に一週間以上。入院だってしたわ」

 マルクエンは目の前の鶏肉が恐くなった。

「そんなに恐いなら鶏肉を食べない方が……」

 ラミッタは首を横に振る。

「言ったでしょ? 中心まで75度以上の1分以上でカンピロバクターは死ぬわ。何事も正しく恐れること。過度に恐れるのも良くないわ」

 マルクエンはラミッタの言葉に感銘を受けた。

「あ、あぁ! そうだな!」

 ラミッタはもう一度言う。

「鶏肉はよく焼いて、調理器具は使い分けて、使った調理器具の消毒も忘れちゃダメよ?」

「分かった」

 ラミッタはよしっと小さく言った。

「これからの季節、食中毒が流行るわ。より一層衛生には気を付けなさい」



 そこでマルクエンは夢から覚めた。

 変な夢を見たなと思い、朝の仕度を済ませていると、部屋がノックされる。

「どうぞ」

「入るわよ」

 ラミッタが扉を開けて入ってきた。

「用意は出来たかしら?」

 マルクエンは返事をすると同時に、一つ聞いてみた。

「あぁ! ところでラミッタ。カンピロバクターって知っているか?」

「か、かんぴろ?」

「今日見た夢の中で、お前が言っていたんだ」

「なっ!? 夢の中で私に意味わかんない事言わせてんじゃないわよ!! ド変態卑猥野郎!!」