別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

 次の日、城に豪華な馬車が来た。それを見てルサークは呟く。

「来たみたいだな……」

 ルサークは静かにスパチーへ告げる。

「スパチー。シシト様とはここで一旦お別れだ」

「……うん」

 もう一度だけ、シシトの手を握り、スパチーは涙を堪えて言う。

「シシト! またな!」

 クルミン家の使いの者が部屋を訪ねる。ルサークは深く頭を下げた。

「お待ちしておりました。この度はお悔やみ申し上げます」

「えぇ、あなた方様にはシシト様がお世話になったと聞き及んでおります。お礼申し上げます」

 使いの者もそう返して、シシトが横たわるベッドを見る。

 担架にシシトは乗せられ、城を出て行く。

 次に馬車に乗せられ、使用人達は深々とお辞儀をしてそれを見送る。

 馬車が見えなくなる頃、スパチーは目に涙を貯めて、鼻水を垂らしていた。

「うっ、シシトぉ……」

 デルタがハンカチを取り出してスパチーの顔を拭く。

「泣かないのスパチー」

「お前だって泣いているぞ!」

 そう、デルタもルサークも涙を堪えきれなかった。

 ガランとしたシシトの部屋に三人は戻る。

 スパチーはシシトが残してくれた、けん玉を手に持っていた。

 下手くそながらカンカンと遊ぼうとするスパチー。

 そんな時、部屋の扉がノックされる。

「入りますよ」

 そこにはヴィシソワが立っていた。ルサークは元気のない声で彼の名を呼ぶ。

「ヴィシソワ様……」

「あなた達にはまだやるべき事が残っています」

 ヴィシソワの言葉に、デルタとルサークは彼の顔をじっと見た。

「スパチー。あなたはシシト様の夢を、叶えたくはありませんか?」

「シシトの……、夢?」

 スパチーは不思議そうな顔で聞き返す。

「そう、シシト様は騎士になりたかった。この国を守る者になりたかった」

「守る……?」

 スパチーはその言葉を呟いた。ヴィシソワは続けて言う。

「この国は、魔人と魔物により危機に晒されています。戦力として、あなたの力が必要なのです」

 ただでさえ、頭の中がぐっちゃぐちゃのスパチーは混乱する。

「私は! 私は……、どうしたら良いんだ……?」

「国を守りなさい。そうでないと大勢の人が死ぬ。死ぬ事は悲しい事です」

 ルサークとデルタは、シシトの死を利用しているヴィシソワに内心腹が立っていたが、何も言わずにいた。

 スパチーは小さくポツリと一言だけ言った。

「そうか……」

 ヴィシソワは声のトーンを変えずに淡々と話す。

「どのみち、あなたに拒否権はありません。この国を守る。でなければこの場で始末します」

 流石にルサークが口を挟んだ。

「ヴィシソワ様、今のスパチーにそれは言い過ぎでは!?」

 だが、次に口を開いたのはスパチーだった。

「わかったぞ。私も国を守ってやるぞ!」

 ルサークとデルタは思わずスパチーを見た。

「スパチー……」

 彼女の名を二人は呟く。

「決まりですね、私が直々に鍛えます。明日から覚悟してくださいね?」

 そのままヴィシソワは背を向けて部屋を出ていった。

 ルサークはスパチーを心配し、声を掛ける。

「スパチー。大丈夫なのか?」

「あぁ、平気だぞ! シシトが国を守りたかったなら、私が代わりに守ってやるぞ!」

 その言葉に、デルタは感動し、深く頷いた。