別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

 朝になり、ルサークが一番に目覚める。

 仕事を開始するまで一時間あったが、朝食を済ませたいので、別室で着替えを済ませてから、デルタとスパチーを起こした。

「デルタ、おはよう」

 声を掛け、軽く揺さぶると「うーん」と言ってデルタが目を覚ました。

「おはよう、ルサーク」

「あぁ、おはようデルタ。よく眠れたか?」

「えぇ」

 デルタも着替える間に、ルサークはスパチーを起こした。

「おい、起きろスパチー」

 幸せそうな顔で眠っているスパチーを揺さぶるが「うみゃー」と小声で言い、目覚めを拒否する。

「起きろ!!」

 上半身を抱えて持ち上げると、スパチーはやっと目を開けた。

「うるさいぞ、ルサーク……」

「もう時間だ」

 スパチーもやっと立ち上がり、デルタに手伝ってもらいながらメイド服に着替えた。

 扉の前で待っていたルサークが、いまだ寝ぼけているスパチーに言った。

「ほら、飯を食いに行くぞ」

「めし……。メシか!?」

 飯という言葉を聞いて、スパチーは目を輝かす。

「コイツ、食い意地だけで生きてるな……」



 食堂で食事を済ませて、ルサーク達はシシトの部屋へと向かった。

「失礼します。シシト様」

 ルサークが部屋のドアをノックし「どうぞ」と返事をもらうと、扉を開けて三人は部屋に入る。

「シシトー! 来たぞー!」

「様を付けろ!! このバカ娘!!」

 スパチーとルサークのやり取りを楽しそうに見るシシト。

「早速ですが、お食事をお持ちしました」

 デルタが朝食をシシトのもとへ運ぶが、今日も食欲が無さそうだ。

「ありがとうございます」

「恐れ入ります」

 シシトの言葉に、一礼して後ろに下がるデルタ。

「シシト、ちゃんと食えよー?」

 スパチーの発言に、ルサークとデルタは驚愕した。

「おまっ、寄こせじゃなくて食えよって!?」

「スパチー!? あなた何か変な物でも食べたの!?」

「シシトはメシ食わないからな!! ちゃんと食べないとダメだぞ!!」

 スパチーの急な心変わりにルサークとデルタは唖然とし、シシトはクスクス笑う。

「スパチーちゃんに言われたら、頑張らないとね」

「そうだぞ!!」

 ルサークとデルタは立ったまま、二人を見守る。

「ほら、食べろ!」

 スパチーは卵のサンドイッチを掴んでシシトの口元に持っていく。

 シシトは口を開け、ほんの少しだけ食べた。

「美味いか!?」

「うん、美味しいね」

「そうだろ!!」

 自信満々に胸を張るスパチーにルサークは言う。

「お前が作ったわけじゃないだろう……」

 スパチーに助けられながら、食事を半分ほど食べたシシト。

「もうお腹いっぱいだね」

「なんだ、もういらないのか?」

 そう言って掴んでいたサンドイッチを食べ出すスパチー。

 それを見てシシトは焦った。

「だ、ダメだよスパチーちゃん! 僕の病気が……」

「私は魔人だから平気だぞ!!」

 サンドイッチをむしゃむしゃ食べるスパチーをルサークは叱る。

「馬鹿っ! また失礼なことを!」

「……。みなさんは……」

 シシトが上半身を起こしたまま、視線だけベッドに向けて呟く。

「みなさんは……。僕が怖くないんですか?」

 シシトに言われ、デルタが言葉を繰り返す。

「怖い……。ですか?」

「だって、病気なのに、立場だけは無駄にあって。それで、それで……」

 スパチーはきょとんとした顔でシシトに言う。

「私は魔人だぞ! シシトはよわよわだから怖くないぞ!」

「ば、馬鹿!! スパチー!!」

 スパチーの言葉に、シシトは悲しげな顔をした。

「確かに、僕はよわよわだ……」

 完全に触れちゃいけない所に触れたなと、ルサークとデルタはうなだれた。

「なんだ、シシト泣いてんのか!?」

 静かに泣きそうになるシシトにスパチーは金髪のツーサイドアップを、ゆさゆささせながら顔を近づける。

 自称魔人で、アホだが、同世代の少女の顔をこんなに近くで見る事は無かったので、思わずシシトは顔をそらして赤面した。

「シシト、大丈夫か? どっか痛いのか?」

 心配そうな顔をするスパチーを見てルサークとデルタは驚いていた。

 あの、遊びで人を傷つけていたスパチーがだ。

「シシト、大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫だよ」

 心臓が高鳴りながら、シシトはスパチーに言った。

 そこで、デルタが口を開いた。

「シシト様。私も昔、病気を患っていた為。少しお気持ちは分かるつもりです」

「デルタさん……」

 シシトはデルタを見つめて小さく名前を口にする。

 ルサークもしっかりとシシトを見つめて言った。

「ヴィシソワ様から聞いています。シシト様の病気は人に移るものじゃないと、それに……」

 ルサークは言うか言わないか少し迷ったが、言ってしまう。

「シシト様って呼んではいますが、何か近所の子供みたいで、放っておけないんですわ」

「ルサークさん……」

 胸がいっぱいになり、シシトは泣き出してしまう。

 貴族、クルミン家の長男としてではなく、一人の人間として対等に接してもらえたこと。

 病気で恐れられず、接してもらったこと。

「シシト、やっぱり大丈夫じゃないのか!?」

「違うよ、ありがとうスパチーちゃん」

 泣きながらも笑顔でお礼を言うシシト。

「お前、泣きながら笑うって変な奴だな!!」