別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

 そこには黒く、深いフードを被った人物が殺気を身に(まと)い、立っていた。

 ラミッタは剣を構えながら叫ぶ。

「アンタ、何者かしら?」

 返事は無い。ただ、その代わりに走ってこちらへやってきた。

 ラミッタの魔法の雷と氷を避けて、更に近付いてくる。

「へぇ、やるじゃない」

 そいつは、ナイフを取り出してシオに投げつけてきた。

 マルクエンが立ちはだかり、剣でナイフを弾く。

 そのまま剣先を相手に向けてマルクエンは言う。

「少しばかり、痛い目を見てもらうか」

 剣を構えたマルクエンとラミッタは、そのフードを被る人物と対峙していた。

 円を描くように周りを走り、執拗にシオ目掛けてナイフを投げてくる。

 マルクエンはチラリとシオを振り返り、言った。

「キミ! 伏せていろ!」

 その命令通り、シオは地面にうつ伏せになり、頭を抱える。

 ラミッタは相手の動きを止めようと、魔法の光弾を撃ちまくっていたが、(かわ)されてしまう。

「ラミッタ。私が行こうか?」

「ダメよ、アイツは生け捕りにして目的を吐いてもらうわ」

 ただ相手を殺すだけなら簡単だが、相手の目的が知りたいので生け捕りにしようと考えているラミッタ。

 魔法攻撃を左右に撃ち、その合間を敵は()(くぐ)ってきた。

「甘いわね」

 ラミッタが足でダンっと地面を踏むと、土壁が相手を上空に押し飛ばした。

 空中で自由が利かない相手に、ラミッタは飛び上がり、拘束魔法を掛ける。

「わざと包囲を薄くして、進路を誘導する。戦いの基本ね」

 マルクエンは落ちてくる敵を両腕で受け止めた。

 黒いフードがはらりと頭から脱げる。その顔を見てマルクエンは驚く。

「なっ、女性だったのか!?」

「なんですって!?」

 透き通るような白い肌と、長い金髪を後ろで結った女性。

 いや、少女といった方がしっくりくる年齢だ。

 地面に下ろしてマルクエンは(かが)んで彼女の顔を改めて見る。

「キミは……」

 その瞬間、少女は口を開き、舌を出して思い切り嚙み切ろうとした。

 マルクエンはとっさに彼女の口に指を突っ込んだ。

 凄まじい力だったが、何とかマルクエンの指も無事で、少女も無事だ。

「あ、危なかった……」

 ラミッタもその光景を見て驚いていた。

「コイツ、躊躇(ちゅうちょ)なかったわね。完全に舌を嚙み切ろうとしていたわ」

「あぁ……」

 ラミッタは口も動かなくなる程に強く拘束魔法を掛けた。

「舌が口の外に出ないようにしたわ。話すことはできるから、離しなさ……」

 ラミッタの話を遮って少女は抑揚のない声で一言だけ言った。

「早く殺せ」




 マルクエンとラミッタが、盗賊の少女シオと謎の暗殺者と出会った少し前、王都では。

「なんだぁ!? この服は!!」

 メイド服に身を包んだスパチーが不思議そうに自身の服をくるくる回って見渡した。

 ヴィシソワがふむと頷いてスパチーに言う。

「馬子にも衣装と言ったところですかね」

「なんだそれ、褒めてんのか!?」

 何も知らないスパチーが言うと、同じくメイド服を着ているデルタと執事服を着たルサークが言った。

「褒めてないぞ」

 褒められていないと分かったスパチーは怒り出す。だが、魔力は封印されているため地団駄を踏むのが精一杯だ。

「なんだと!!」

 パンパンと手を叩いてヴィシソワは話し始めた。

「お静かに、これから皆さんにはとある高貴な方に仕えてもらいます」

 高貴な方と聞いてルサークとデルタに緊張が走る。

 それを見透かしたようにヴィシソワは言った。

「まぁ、緊張しないでください。無礼があったら首が飛ぶだけです。比喩ではなく物理的に」

 怖いその言葉にルサークはツッコミを入れる。

「いや、それ緊張しますよね!?」

 ヴィシソワはクスクス笑った後に、扉の方を向いて歩きだした。

「こちらです。付いてきてください。あ、そうそう。この城では私はただの貴族として生きていますので、そのおつもりで」

 重い足取りで歩くルサークとデルタ。その後ろを呑気そうに歩くスパチー。

 客室塔のとある扉の前で立ち止まったヴィシソワ。

「シシト様、失礼します」

 ノックをして扉を開ける。どんな恐ろしい貴族が待っているのだろうと思っていたルサークとデルタの目に飛び込んできたのは。

「こんにちは。シシトと申します」

 ベッドに横たわった、色白でやせ細った白髪の少年だった。

「今日からこの者たちを使用人として仕えさせますので、よろしくお願いいたします」

 ヴィシソワは深々と礼をし、それに(なら)ってスパチー以外は礼をした。

「ヴィシソワ様、ありがとうございます。皆さんよろしくお願いいたしますね」

 貴族の子供って言ったら甘やかされて威張り散らかすんじゃないかと思っていたルサークだったが、その丁寧で上品な物腰に、思わずはるか年下と言えど敬意を払った。

「ルサークと申します。よろしくお願いいたします」

「デルタと申します。よろしくお願いいたします」

「私はスパチー! 魔人だぞ!!」

 スパチーのアホ発言にルサークとデルタはブーッと吹き出す。

「ば、馬鹿!! 何言ってんだ!!」

 ルサークが慌てふためいたが、シシトという貴族の少年はクスクスと笑っていた。

「面白い冗談ですね」

 それもそうだ。城に魔人が居るだなんて普通思わないだろう。

 ルサークもデルタも冷や汗をかいてから少年の方を見る。

「それでは皆さん、シシト様の事を頼みましたよ。それと明日、聖女様にもう一度診て頂きますので」

 ヴィシソワは部屋を去っていく。残されたルサークとデルタは何をしたものかと考えていた。

「お前!! 名前なんて言うんだ!?」

 ルサークはスパチーの頭をスッパーンと引っぱたいた。

「シシト様、すみませ……。申し訳ございません、教育が行き届いておらず……」

 怒るでもなく、むしろ少年は笑顔だった。

「ふふっ、僕はシシトだよ。スパチーさん」

「シシトか!!」

 ルサークはまた焦りだした。

「ばっ、おまっ、呼び捨てにするな!!」

 シシトは笑いながらまた答える。

「大丈夫ですよ」