数日が経った、ある日の放課後のことである。

 俺と由依は職員室前の廊下にやってきた。

「三崎くん。同好会のチラシ、どこに貼ればいいかしら?」

 由依は掲示板を前にして俺に尋ねた。

「真ん中にしよう。こういうのは目立ってなんぼだ」
「ふふっ。なんかその言い方、陽葵みたいだわ」
「おい、それは心外だ。俺はあいつと違ってデリカシーあるし、奥ゆかしいだろ。大和撫子と見紛う紳士だと自負して」
「ここにするわね」
「話聞けよ!」

 くすくす笑いながら、由依は掲示板のど真ん中にチラシを貼った。

「うん。なかなかのデキね」

 由依が掲示板を眺め、満足げに頷いた。
 チラシには、「軽音楽同好会メンバー募集中! ボーカルとギターは大歓迎!」と書かれている。

「新しいメンバーが加入したら、陽葵は嫉妬したりしないかしら?」
「大丈夫だ。しないよ、きっと」

 俺たちの演奏を天国で聞くこと。
 それが陽葵の新しい夢だから。

「三崎くん。これからどうする?」
「チラシを印刷して配りまくろう」
「あら。勧誘活動するの? やる気満々ね」
「……人見知りだから緊張する」
「ダサっ」
「言うな! 自分でもわかってるから!」
「ふふっ。陽葵に笑われるわよ?」
「うっせ。どうせあいつは何してもからかってくるんだ。笑わせておけ」

 悪態をつきながら、二人で廊下を歩く。

 陽葵がいなくなっても、俺たちの話題の中心は彼女だった。まだ亡くなった悲しみが癒えないのだから仕方ない。俺たちは弱虫だから、しばらくは引きずってしまうだろう。

 でも大丈夫。
 ちゃんと前は向いているから。

 なあ、陽葵。
 俺たちの新しい音楽、楽しみにしていてくれよな。

「三崎くん。早くビラを配りに行くわよ。もしや怖気づいたんじゃないでしょうね? 足、震えているんじゃないの?」

 前を歩く由依が振り返り、意地悪な笑みを浮かべている。

「馬鹿言え。これは武者震いだ」

 笑って言い返し、由依を追いかけた。


 ◆


 夢中で駆け抜けた、青い夏は終わった。

 そして、君のいない新しい季節がやってくる。