「僕はね、お菓子を作るのはすごく好きだけど、プロになりたいと思ったことは一度もないよ」


いつものへらりと笑う能天気さはなりを潜め、真剣な顔のふゆ樹に真っ直ぐ見つめられると、その雰囲気の違いにななは少しだけドキっとした。


「僕は今までもこれからも、たった一人のためにしか作らないんだ。その人を喜ばせるために、僕はお菓子を作りたい」


そっと手を離したふゆ樹が、ぎこちなく笑ってみせる。


「……ずっとずっと前から、なーちゃんのことが大好きなんだ。だから僕は、これからも大好きななーちゃんのためだけに、お菓子を作りたい」


ふゆ樹の頬を涙が伝う。


「あれ、ごめん……!泣くつもりじゃなかったのに」


袖を使って必死で涙を拭う姿に、ななの口から小さくため息が漏れた。

慣れないことをするから、こんな情けない事になるのだと、言いはしないが心の中で思いながら、ななはそっと手を伸ばして優しくふゆ樹の頭を撫でる。


「相変わらず、泣き虫」