合理的とも言える未来計画である。
「そしてちゃんと幸せになります」
「幸せ、かい?」
「何が幸せかは分かりませんけれど……ともかく幸せだと言える生活を手に入れてみせます」
「そうだね。テシアにはその権利がある。ここまで神託のために身を粉にして働いてきたんだものね」
マリアベルは優しい目でテシアのことを見つめている。
テシアがこれまでどれほどの努力をしてきたのかマリアベルは知っている。
自分の希望を口にしたことすらなかった。
そんなテシアが幸せになると言う。
自分にできることならばいくらでも手を貸そうと思う。
「失礼します。馬車のご用意ができました」
男性の神官がドアをノックして中に入ってきた。
「短い休憩だったけど大丈夫かい?」
「もちろんです。行きましょうか」
「お荷物お持ちいたします」
マリアベルがスーツケースを一つ持って、男性の神官ももう一つのスーツケースを持ってくれた。
国から出してもらった馬車に比べるとやや質素な馬車が教会前に停まっていた。
教会が持っているものなのだ、豪華な馬車であることはあり得ない。
テシアに不満はない。
むしろ馬車を用意してくれたことに感謝すらしている。
「私が今回馬車を護衛させていただく神官騎士のチミーズです」
身分を剥奪されたとはいえ元皇女である。
狙うものがいないとも限らないのでテシアを安全に国外に送り届けるために4人の神官騎士が護衛についてくれた。
「あら?」
馬車に乗り込んだテシアに続いてマリアベルも馬車に乗ってきた。
驚いてテシアは目をパチクリとさせた。
「大主教も……ご一緒に?」
「ああ、そういえば言ってなかったな。テシアの身柄は私が引き受けたのだ。国を出るまでは責任を持って見届けねばな」
少々イタズラっぽく笑って見せるマリアベルを見ればわざと言っていなかったことなどお見通しである。
「それにテシアのいないこの国にいてもしょうがないからね」
「そのようなことはないでしょう」
呆れたように肩をすくめるとマリアベルが笑う。
「いいのさ。どの道私は教会所属で国に縛られるわけじゃない。出してくれ」
マリアベルが後ろの壁を叩いて出発の合図を出すと馬車が動き出した。
テシアは黙って窓の外を眺めている。
まるで過ぎ去る景色を目に焼き付けるような姿にマリアベルも水を刺さないよう黙していた。
「知っている景色。だけど知らない景色」
小さい頃からこの国に、そしてこの町に住んでいた。
お城から見下ろしたり、馬車や馬で走ったり、歩いてみたり。
色んなところからこの町を見てきた。
たくさんの場所がテシアの頭の中には入っている。
有名なお菓子屋さん、何度もサイズを測ったドレス店、新刊を楽しみに足を運んだ書店。
知ってるところはいっぱいある。
でもその一方で知らないところもまだまだある。
行ったことがないお店、話したことがない人、新しく変わっていく町並み。
よく知ってる町だけどよく見るとまだ知らない町。
もっとこれからも知っていけると思っていた。
「……馬車の速度を緩めるかい?」
「いいえ、大丈夫」
速くても遅くてもしっかりと目に焼き付けている。
きっとこれからの人生でも忘れることはない。
流れゆく景色はいつの間にか町中を抜けていた。
町の方を見ると町の中心に立つお城が見えた。
テシアの人生の多くをあのお城で過ごしたのだと思うと胸が締め付けられるような寂しさも感じずにはいられない。
聖女が次期国王たる第一皇子の婚約者となった。
神の寵愛を受けし者である聖女がいてくれる限りデラべルードは安泰である。
さらにはテシアの兄3人は仲も良く、それぞれ能力もある。
助け合って国を支えていけば何も心配することはないのだ。
心残りはある。
致し方ないとはいえ聖女を傷つけてしまったことと兄である第一皇子をそのためにひどく怒らせたことだ。
今更許しを請うことはないけれどいつか許してくれればいいなとは思ってしまう。
「さようなら……」
遠ざかる故郷を眺めテシアは呟いた。
「我が祖国よ、我が友よ、我が家族よ、幸せにお過ごしください。私も、絶対幸せになるから」
「そしてちゃんと幸せになります」
「幸せ、かい?」
「何が幸せかは分かりませんけれど……ともかく幸せだと言える生活を手に入れてみせます」
「そうだね。テシアにはその権利がある。ここまで神託のために身を粉にして働いてきたんだものね」
マリアベルは優しい目でテシアのことを見つめている。
テシアがこれまでどれほどの努力をしてきたのかマリアベルは知っている。
自分の希望を口にしたことすらなかった。
そんなテシアが幸せになると言う。
自分にできることならばいくらでも手を貸そうと思う。
「失礼します。馬車のご用意ができました」
男性の神官がドアをノックして中に入ってきた。
「短い休憩だったけど大丈夫かい?」
「もちろんです。行きましょうか」
「お荷物お持ちいたします」
マリアベルがスーツケースを一つ持って、男性の神官ももう一つのスーツケースを持ってくれた。
国から出してもらった馬車に比べるとやや質素な馬車が教会前に停まっていた。
教会が持っているものなのだ、豪華な馬車であることはあり得ない。
テシアに不満はない。
むしろ馬車を用意してくれたことに感謝すらしている。
「私が今回馬車を護衛させていただく神官騎士のチミーズです」
身分を剥奪されたとはいえ元皇女である。
狙うものがいないとも限らないのでテシアを安全に国外に送り届けるために4人の神官騎士が護衛についてくれた。
「あら?」
馬車に乗り込んだテシアに続いてマリアベルも馬車に乗ってきた。
驚いてテシアは目をパチクリとさせた。
「大主教も……ご一緒に?」
「ああ、そういえば言ってなかったな。テシアの身柄は私が引き受けたのだ。国を出るまでは責任を持って見届けねばな」
少々イタズラっぽく笑って見せるマリアベルを見ればわざと言っていなかったことなどお見通しである。
「それにテシアのいないこの国にいてもしょうがないからね」
「そのようなことはないでしょう」
呆れたように肩をすくめるとマリアベルが笑う。
「いいのさ。どの道私は教会所属で国に縛られるわけじゃない。出してくれ」
マリアベルが後ろの壁を叩いて出発の合図を出すと馬車が動き出した。
テシアは黙って窓の外を眺めている。
まるで過ぎ去る景色を目に焼き付けるような姿にマリアベルも水を刺さないよう黙していた。
「知っている景色。だけど知らない景色」
小さい頃からこの国に、そしてこの町に住んでいた。
お城から見下ろしたり、馬車や馬で走ったり、歩いてみたり。
色んなところからこの町を見てきた。
たくさんの場所がテシアの頭の中には入っている。
有名なお菓子屋さん、何度もサイズを測ったドレス店、新刊を楽しみに足を運んだ書店。
知ってるところはいっぱいある。
でもその一方で知らないところもまだまだある。
行ったことがないお店、話したことがない人、新しく変わっていく町並み。
よく知ってる町だけどよく見るとまだ知らない町。
もっとこれからも知っていけると思っていた。
「……馬車の速度を緩めるかい?」
「いいえ、大丈夫」
速くても遅くてもしっかりと目に焼き付けている。
きっとこれからの人生でも忘れることはない。
流れゆく景色はいつの間にか町中を抜けていた。
町の方を見ると町の中心に立つお城が見えた。
テシアの人生の多くをあのお城で過ごしたのだと思うと胸が締め付けられるような寂しさも感じずにはいられない。
聖女が次期国王たる第一皇子の婚約者となった。
神の寵愛を受けし者である聖女がいてくれる限りデラべルードは安泰である。
さらにはテシアの兄3人は仲も良く、それぞれ能力もある。
助け合って国を支えていけば何も心配することはないのだ。
心残りはある。
致し方ないとはいえ聖女を傷つけてしまったことと兄である第一皇子をそのためにひどく怒らせたことだ。
今更許しを請うことはないけれどいつか許してくれればいいなとは思ってしまう。
「さようなら……」
遠ざかる故郷を眺めテシアは呟いた。
「我が祖国よ、我が友よ、我が家族よ、幸せにお過ごしください。私も、絶対幸せになるから」