完全にゲレンネルに着いた。
しかしもはや何の痕跡もなく、夜のこの時間では町を歩いている人もいないので目撃者を探すこともできない。
「どうしたら……」
「ビノシ商会に向かってください」
「ビノシ商会……ですか?」
「はい!」
「……分かりました!」
そこに何があるのか疑問であるが聞いている時間も惜しい。
とりあえずキリアンは馬を走らせる。
外のような速度を出すとまた止められるかもしれないので不自然に見えないぐらいの速度に抑えてはいる。
「ここは……」
「酒場です」
ビノシ商会に行くといってもビノシ商会がどこにあるのかハニアスも知らない。
道行く人もいないが町中走り回って探すことも時間の無駄である。
人に聞くのが1番早い。
こんな時間でも人がいるところとしてキリアンは町の酒場にやってきた。
「ここで待っていてください」
キリアンは馬から降りると1人で酒場の中に入っていった。
入った瞬間ムワッとした酒の匂いが鼻をつく。
もう遅い時間なので多くの人がすでに酔っ払っている。
その中でまたまだ話せそうな人、酔いの回りが遅そうな人をキリアンは探す。
「この人たちに一杯奢ってください」
まだまともそうなテーブルに近づいたキリアンはサッと手を上げてお酒を注文する。
「おっ、悪いね。いきなりこんなことしてくれるなんて……ただの善意じゃなさそうだけど」
テーブルにいたひげ面の男がニヤリと笑う。
こんな夜更けにいきなり他人に酒を奢りにくる酔狂な奴はいない。
何かしらの理由があることは丸わかりである。
「ビノシ商会という商会を探していまして。建物の場所を知っていたら教えてほしいのです」
「ビノシ商会? ……あー、誰か知ってるか?」
変なことなら酒だけ飲んで無視するつもりだったが、商会の場所を聞きたいぐらいなら特に秘密の情報でも何でもない。
しかしひげ面の男は知らないらしく同じテーブルで飲んでいる仲間に尋ねた。
「あれでしょ? 最近できた商会だ。安くて質がいいってんで結構良い店ですよ」
「どこにあるか分かりますか?」
「あーとな、このままここの通りを抜けていくと大きい通りに出る。右に曲がってペントン通りに入るとあるはずだぜ」
「ありがとうございます」
「おうっ、これぐらいどうってことないさ」
「この人たちにもう一杯」
キリアンは店員にお金を渡して店を出る。
匂いだけでも酔っ払ってしまいそうな空気から外に出ると夜風が少し気持ちいい。
「どうでしたか?」
「場所がわかりました。この時間なので開いているかは分かりませんが行ってみましょう」
再び馬に乗り、教えてもらった通りに町中を移動していく。
「あっ、ありました!」
ペントン通りの真ん中の一等地にビノシ商会はあった。
綺麗な見た目をした新しめの建物で相当いい場所に店舗を構えている。
「誰かいますね」
ハニアスが二階の窓から光が漏れていることを見つけた。
商会に誰かいる。
「すいません!」
キリアンがビノシ商会のドアを壊れそうなほどに叩く。
こんな時間だからか無視されていたようだったがキリアンは諦めない。
「こんな時間に何の用だ?」
ガチャリとドアが開いて顔を覗かせたのはかなり大柄な男性だった。
顔の真ん中に真横に走る傷痕がある男の声からは苛立ちが感じられる。
「商会はもう閉店だ! 明日また来てくれ」
「待ってください! 私は黒いコインの貴人の代理です!」
ドアを閉めようとしたところにハニアスが叫ぶ。
「……何?」
「黒いコインの貴人の代理です」
傷の男が殺気にも近いような圧力をハニアスに向けた。
キリアンはとっさに剣に手をかけながらハニアスを庇うように前に出た。
「……少し待っていろ」
傷の男はドアを閉めて中に戻っていった。
そして程なくして再びドアが開いた。
「黒いコインの貴人の代理ですか?」
出てきたのは壮年の男性だった。
丸いグラスをかけていて白髪混じり、レディー受けしそうな顔立ちをしている。
「コインは?」
「こちらに」
ハニアスはテシアの荷物の中から用意していた黒いコインを壮年の男性に渡す。
「ひとまず中にお入りください」
「おっと、あんたはダメだ」
「なっ……」
「入れるのは黒いコインの貴人の代理だけだ」
傷の男がハニアスと一緒に入ろうとしたキリアンを止めた。
「けれど……!」
「本当に黒いコインの貴人の代理なら何も心配することはない」
「キリアン様、大丈夫です」
一触即発の雰囲気。
ハニアスがキリアンに頷いて、キリアンは不服そうな表情を浮かべながら下がる。
ハニアスはそのままビノシ商会の奥の部屋に通された。
「私はビノシ商会の商会長であるダイコクです」
低くて心地の良い声をしているダイコクは丁寧にハニアスにお辞儀をした。
「商会長……」
ハニアスは驚いて目を見開いた。
支部長ではなく商会長。
つまりビノシ商会のトップがダイコクであった。
「私はハニアスと申します」
「ええ、お名前は存じております。黒いコインの貴人……テシア様とご一緒に旅なされている方ですね」
ダイコクはハニアスのことも知っていた。
これまで一緒にビノシ商会に行ったこともあるのだからそれも不思議ではないとハニアスは思う。
しかしもはや何の痕跡もなく、夜のこの時間では町を歩いている人もいないので目撃者を探すこともできない。
「どうしたら……」
「ビノシ商会に向かってください」
「ビノシ商会……ですか?」
「はい!」
「……分かりました!」
そこに何があるのか疑問であるが聞いている時間も惜しい。
とりあえずキリアンは馬を走らせる。
外のような速度を出すとまた止められるかもしれないので不自然に見えないぐらいの速度に抑えてはいる。
「ここは……」
「酒場です」
ビノシ商会に行くといってもビノシ商会がどこにあるのかハニアスも知らない。
道行く人もいないが町中走り回って探すことも時間の無駄である。
人に聞くのが1番早い。
こんな時間でも人がいるところとしてキリアンは町の酒場にやってきた。
「ここで待っていてください」
キリアンは馬から降りると1人で酒場の中に入っていった。
入った瞬間ムワッとした酒の匂いが鼻をつく。
もう遅い時間なので多くの人がすでに酔っ払っている。
その中でまたまだ話せそうな人、酔いの回りが遅そうな人をキリアンは探す。
「この人たちに一杯奢ってください」
まだまともそうなテーブルに近づいたキリアンはサッと手を上げてお酒を注文する。
「おっ、悪いね。いきなりこんなことしてくれるなんて……ただの善意じゃなさそうだけど」
テーブルにいたひげ面の男がニヤリと笑う。
こんな夜更けにいきなり他人に酒を奢りにくる酔狂な奴はいない。
何かしらの理由があることは丸わかりである。
「ビノシ商会という商会を探していまして。建物の場所を知っていたら教えてほしいのです」
「ビノシ商会? ……あー、誰か知ってるか?」
変なことなら酒だけ飲んで無視するつもりだったが、商会の場所を聞きたいぐらいなら特に秘密の情報でも何でもない。
しかしひげ面の男は知らないらしく同じテーブルで飲んでいる仲間に尋ねた。
「あれでしょ? 最近できた商会だ。安くて質がいいってんで結構良い店ですよ」
「どこにあるか分かりますか?」
「あーとな、このままここの通りを抜けていくと大きい通りに出る。右に曲がってペントン通りに入るとあるはずだぜ」
「ありがとうございます」
「おうっ、これぐらいどうってことないさ」
「この人たちにもう一杯」
キリアンは店員にお金を渡して店を出る。
匂いだけでも酔っ払ってしまいそうな空気から外に出ると夜風が少し気持ちいい。
「どうでしたか?」
「場所がわかりました。この時間なので開いているかは分かりませんが行ってみましょう」
再び馬に乗り、教えてもらった通りに町中を移動していく。
「あっ、ありました!」
ペントン通りの真ん中の一等地にビノシ商会はあった。
綺麗な見た目をした新しめの建物で相当いい場所に店舗を構えている。
「誰かいますね」
ハニアスが二階の窓から光が漏れていることを見つけた。
商会に誰かいる。
「すいません!」
キリアンがビノシ商会のドアを壊れそうなほどに叩く。
こんな時間だからか無視されていたようだったがキリアンは諦めない。
「こんな時間に何の用だ?」
ガチャリとドアが開いて顔を覗かせたのはかなり大柄な男性だった。
顔の真ん中に真横に走る傷痕がある男の声からは苛立ちが感じられる。
「商会はもう閉店だ! 明日また来てくれ」
「待ってください! 私は黒いコインの貴人の代理です!」
ドアを閉めようとしたところにハニアスが叫ぶ。
「……何?」
「黒いコインの貴人の代理です」
傷の男が殺気にも近いような圧力をハニアスに向けた。
キリアンはとっさに剣に手をかけながらハニアスを庇うように前に出た。
「……少し待っていろ」
傷の男はドアを閉めて中に戻っていった。
そして程なくして再びドアが開いた。
「黒いコインの貴人の代理ですか?」
出てきたのは壮年の男性だった。
丸いグラスをかけていて白髪混じり、レディー受けしそうな顔立ちをしている。
「コインは?」
「こちらに」
ハニアスはテシアの荷物の中から用意していた黒いコインを壮年の男性に渡す。
「ひとまず中にお入りください」
「おっと、あんたはダメだ」
「なっ……」
「入れるのは黒いコインの貴人の代理だけだ」
傷の男がハニアスと一緒に入ろうとしたキリアンを止めた。
「けれど……!」
「本当に黒いコインの貴人の代理なら何も心配することはない」
「キリアン様、大丈夫です」
一触即発の雰囲気。
ハニアスがキリアンに頷いて、キリアンは不服そうな表情を浮かべながら下がる。
ハニアスはそのままビノシ商会の奥の部屋に通された。
「私はビノシ商会の商会長であるダイコクです」
低くて心地の良い声をしているダイコクは丁寧にハニアスにお辞儀をした。
「商会長……」
ハニアスは驚いて目を見開いた。
支部長ではなく商会長。
つまりビノシ商会のトップがダイコクであった。
「私はハニアスと申します」
「ええ、お名前は存じております。黒いコインの貴人……テシア様とご一緒に旅なされている方ですね」
ダイコクはハニアスのことも知っていた。
これまで一緒にビノシ商会に行ったこともあるのだからそれも不思議ではないとハニアスは思う。