「こんなところにいたのか」
デゴロニアンはテラスにいたシェジョンに声をかけた。
ワイングラスを片手につまらなそうに空を眺めていたシェジョンはため息をついて振り返った。
「少し風に当たりたくて」
今日はデゴロニアンとシェジョンの兄である第一皇子と聖女の結婚式であった。
祝うべきめでたい日なのだがシェジョンの心はどこか晴れなかった。
「テシアのことを考えていたのか?」
デゴロニアンにはその理由も分かりきっている。
シェジョンは特にテシアに懐いていた。
幼い頃に母親を亡くしたシェジョンにとってテシアは姉でありながら母のようにもシェジョンを支えてくれた存在であった。
結果的に命に関わりのない罰が下されることになったけれどそのせいでテシアと別れ離れになってしまった。
シェジョンがそのことで気落ちしているのはデゴロニアンも感じている。
結局第一皇子と聖女は結婚することにもなったし素直に祝うだけの気持ちになれないことも理解はできた。
「どうしてお姉様はあんなことを……」
気に入らないというのならそれはそれでも構わない。
多少シェジョンも気に入らないところがあるから。
でもシェジョンから見たテシアはそんなに聖女のことを嫌っていないようにも見えた。
ましてお粗末な毒殺を試みるようには到底思えないのである。
「……これはあくまでも俺の推測だが」
デゴロニアンはシェジョンの横に立つとメガネをクイっと上げた。
「テシアは兄さんを結婚させようとしたんじゃないかと思っている」
「……何を言ってるんだい、兄さん?」
「考えてもみろ。兄さんが簡単に誰かを好きになると思うか?」
「……いや、思わない」
シェジョンとデゴロニアンは兄である第一皇子の姿を思い浮かべた。
父である皇帝に似た凛々しい容姿を持って生まれた第一皇子は厳しい後継者教育を受けてきたせいなのか、中々人に心を開かない性格になってしまった。
表面上は上手く付き合うのだけどあるところで一線を引いて付き合い、女性に関しても決して心を許さなかった。
そんな第一皇子でもテシアには心を許していた。
「しかしいつまで経っても独り身とはいかない。きっと兄さんなら表面上だけでも上手くやるんだろうけどテシアは兄さんに人を愛してほしいと言っていた」
国のトップに立つものが独身であるとはいかない。
後継者の問題もあるし、女性的な管理は代々皇帝の妻が行ってきたのであるから。
どうせ結婚するのなら愛を持って結婚してほしい。
テシアはそう考えていた。
だがどうやって心を開かない人の心を開かせるのか。
「まさかテシアお姉様が兄さんのためにわざと聖女をいじめていたと言うんですか?」
きっとテシアが口を添えて仲人のように働きかけても第一皇子の心は動かない。
むしろより頑なに距離を取ろうとしたかもしれない。
そこでテシアは逆のことをした。
聖女をいじめるようにして見せたのだ。
そうすると表面上は良い人である第一皇子はテシアを止めるだろう。
そして聖女は助けてくれた第一皇子に心を寄せる。
助けていくうちに2人の距離は縮まっていく。
テシアが勧めたわけでもないので第一皇子も気づかぬ間に聖女と仲を深めることになったのだ。
「じゃあどうして毒殺なんか……」
「毒殺じゃない」
「……どういうことですか?」
「あの毒は弱くはないが強い神聖力を持つ聖女ならば死なない程度の毒だったのだ」
「それこそどうして……」
「最後の仕上げだ」
「最後の仕上げ……?」
シェジョンは訳がわからないという顔をした。
「テシアのおかげで2人の距離は近づいた、としよう。しかし兄さんも筋金入りだ。最後の一線を超えるのは楽なことじゃない。強力な衝撃が必要なんだ」
「それが……毒殺?」
「ああ、そうだ。命を失いかけた聖女。兄さんはそれによって大事なものに気がついた」
「……だとしても分からないよ。どうしてお姉様がそんなこと……」
「……みんなのためかもしれないな」
デゴロニアンには空を見上げた。
星が輝く天は結婚を祝福してくれているようだ。
「聖女が来てくれれば国はしばらく安泰だろう。さらに兄さんに配偶者もできる」
「…………それが本当だとして、お姉様はいつからそんな計画を」
「さあな。これだって推測に過ぎない」
「じゃあお姉様の幸せは」
「分からんぞ、シェジョン」
「なにがですか?」
「今こうして国を出て自由にしている。このことまでテシアの手のひらの上かもしれない」
最初から最後まで全てテシアの思い通りに事が進んでいたとしたら。
我が妹ながらとんでもない策士である。
「……お姉様、元気かな?」
「元気だろう。いつか手紙ぐらい送ってくれるさ」
「……ふふっ、じゃあ元気にやらなきゃな」
デゴロニアンはテラスにいたシェジョンに声をかけた。
ワイングラスを片手につまらなそうに空を眺めていたシェジョンはため息をついて振り返った。
「少し風に当たりたくて」
今日はデゴロニアンとシェジョンの兄である第一皇子と聖女の結婚式であった。
祝うべきめでたい日なのだがシェジョンの心はどこか晴れなかった。
「テシアのことを考えていたのか?」
デゴロニアンにはその理由も分かりきっている。
シェジョンは特にテシアに懐いていた。
幼い頃に母親を亡くしたシェジョンにとってテシアは姉でありながら母のようにもシェジョンを支えてくれた存在であった。
結果的に命に関わりのない罰が下されることになったけれどそのせいでテシアと別れ離れになってしまった。
シェジョンがそのことで気落ちしているのはデゴロニアンも感じている。
結局第一皇子と聖女は結婚することにもなったし素直に祝うだけの気持ちになれないことも理解はできた。
「どうしてお姉様はあんなことを……」
気に入らないというのならそれはそれでも構わない。
多少シェジョンも気に入らないところがあるから。
でもシェジョンから見たテシアはそんなに聖女のことを嫌っていないようにも見えた。
ましてお粗末な毒殺を試みるようには到底思えないのである。
「……これはあくまでも俺の推測だが」
デゴロニアンはシェジョンの横に立つとメガネをクイっと上げた。
「テシアは兄さんを結婚させようとしたんじゃないかと思っている」
「……何を言ってるんだい、兄さん?」
「考えてもみろ。兄さんが簡単に誰かを好きになると思うか?」
「……いや、思わない」
シェジョンとデゴロニアンは兄である第一皇子の姿を思い浮かべた。
父である皇帝に似た凛々しい容姿を持って生まれた第一皇子は厳しい後継者教育を受けてきたせいなのか、中々人に心を開かない性格になってしまった。
表面上は上手く付き合うのだけどあるところで一線を引いて付き合い、女性に関しても決して心を許さなかった。
そんな第一皇子でもテシアには心を許していた。
「しかしいつまで経っても独り身とはいかない。きっと兄さんなら表面上だけでも上手くやるんだろうけどテシアは兄さんに人を愛してほしいと言っていた」
国のトップに立つものが独身であるとはいかない。
後継者の問題もあるし、女性的な管理は代々皇帝の妻が行ってきたのであるから。
どうせ結婚するのなら愛を持って結婚してほしい。
テシアはそう考えていた。
だがどうやって心を開かない人の心を開かせるのか。
「まさかテシアお姉様が兄さんのためにわざと聖女をいじめていたと言うんですか?」
きっとテシアが口を添えて仲人のように働きかけても第一皇子の心は動かない。
むしろより頑なに距離を取ろうとしたかもしれない。
そこでテシアは逆のことをした。
聖女をいじめるようにして見せたのだ。
そうすると表面上は良い人である第一皇子はテシアを止めるだろう。
そして聖女は助けてくれた第一皇子に心を寄せる。
助けていくうちに2人の距離は縮まっていく。
テシアが勧めたわけでもないので第一皇子も気づかぬ間に聖女と仲を深めることになったのだ。
「じゃあどうして毒殺なんか……」
「毒殺じゃない」
「……どういうことですか?」
「あの毒は弱くはないが強い神聖力を持つ聖女ならば死なない程度の毒だったのだ」
「それこそどうして……」
「最後の仕上げだ」
「最後の仕上げ……?」
シェジョンは訳がわからないという顔をした。
「テシアのおかげで2人の距離は近づいた、としよう。しかし兄さんも筋金入りだ。最後の一線を超えるのは楽なことじゃない。強力な衝撃が必要なんだ」
「それが……毒殺?」
「ああ、そうだ。命を失いかけた聖女。兄さんはそれによって大事なものに気がついた」
「……だとしても分からないよ。どうしてお姉様がそんなこと……」
「……みんなのためかもしれないな」
デゴロニアンには空を見上げた。
星が輝く天は結婚を祝福してくれているようだ。
「聖女が来てくれれば国はしばらく安泰だろう。さらに兄さんに配偶者もできる」
「…………それが本当だとして、お姉様はいつからそんな計画を」
「さあな。これだって推測に過ぎない」
「じゃあお姉様の幸せは」
「分からんぞ、シェジョン」
「なにがですか?」
「今こうして国を出て自由にしている。このことまでテシアの手のひらの上かもしれない」
最初から最後まで全てテシアの思い通りに事が進んでいたとしたら。
我が妹ながらとんでもない策士である。
「……お姉様、元気かな?」
「元気だろう。いつか手紙ぐらい送ってくれるさ」
「……ふふっ、じゃあ元気にやらなきゃな」