知らない人に話しかけられてもついていかないこと、もし何か言われても母親と待ち合わせしているとごまかすようにと言われていた。
けれど急に目の前に現れたキリアンに、いっぱいいっぱいになっていたジナはパニックになって泣き出してしまったのである。
「泣かなくても大丈夫。このお兄さんも怖い人じゃないからね」
「うん……」
しかし少し困ったものであるとテシアは思う。
大きな町なので市場も意外と大きい。
町に住む人だけでなく近くの農村などからも物を売りに来ている人や行商人なんかもいる。
小さい町なら一本の路地で入り口出口が一つなこともあるが、ここはいくつか入り口と言える場所がある。
もしかしたら母親はどこの入り口かまで指定しているのかもしれないけれどジナがとりあえず市場の入り口ということだけ覚えている可能性もある。
だが下手に動くと入れ違いになってしまうこともありうる。
「まあここで待っているのが1番安心かもしれないね」
それなら変に母親を捜しにいくよりもジナがいないことに気づいて入り口を捜し回るのを待った方が確実である。
「じゃあ僕と待ってようか。ジナ、お菓子は好きかい?」
「うん、好き」
「お母さんには秘密で少しおやつにしよう」
テシアはハニアスが持っている買ってきたものが入っている紙袋をゴソゴソと漁って焼き菓子を取り出した。
日持ちがするように硬めに焼いたクッキーだった。
お店の店主が勧め上手でついつい買ってしまったものである。
「はい」
「…………で、でも」
「ん?」
「知らない人から物をもらっちゃダメだって」
母親もジナもしっかりしているなとテシアは思った。
「ジナは教会にお祈りに行ったりするかい?」
「うん、週末には教会に行くんだ」
「僕も彼女も教会で神様に仕える神官なんだ」
「そうなの?」
「そう、だから悪い人じゃないし大丈夫だよ」
「……うーん」
多少無理やりな説明。
いけるかなと思ったけれどジナはしっかりしていた。
「じゃあ……ハニアス、アーン」
「へっ?」
「アーンだって」
「ア、アーン」
言われるままにハニアスが口を開けるとクッキーを一つ放り込む。
「むぐ」
クッキーを入れられてハニアスは不思議そうな顔をしながらもぐもぐと口を動かす。
噛んでいると自然な甘みの広がる美味しいクッキーである。
「キリアン、アーンだ」
「な、なんでですか?」
「いいから」
「……アーン」
ちょっと恥ずかしくてキリアンは耳を赤くしながら口を開けてクッキーを受け入れた。
「ほら、安全なクッキーだ。これで誘って怪しい場所にでも行こうなんて言わないよ。食べるだけなら問題ないだろ」
「……そう、だね」
「ほらジナ、アーン」
「……あーん」
「うん、いい子だ」
テシアがクッキーを口に入れてあげるとジナはモグモグと口を動かした。
「そうだな……キリアン」
「ん……なんでしょうか?」
意外とクッキー美味しいな、なんて思っていたキリアンは慌ててクッキーを飲み込んだ。
「母親を捜してきてはくれないかい? きっと子供を探している女性がいるはずだ。今ジナが動くのはすれ違いになるかもしれないけど誰かが母親の方を捜してもいいはずだ」
「分かりました! 俺が責任を持って捜してきます」
ジナも落ち着いてきた。
少し時間も経っているので母親もジナがいないことに気がついて捜しているはずだ。
キリアンが市場の方に走っていって母親を捜しにいった。
普通の町よりは大きな市場であるが広くても市場の範囲は限定される。
そう時間もかからずに母親は見つかるだろうと思った。
「そうか、好きな子がいるんだね」
ただ待っていても暇なのでジナの話を聞く。
近所の男の子が好きだとジナは頬を赤らめていてテシアとハニアスでそれを微笑ましく見ていた。
「恋はいいねぇ」
「テシアおね……お兄さん? おねえさん? お兄さん……?」
ジナはテシアに好きな人がいるかと聞こうとして、テシアが男性か女性か分からなくてジナは首を傾げた。
「ふふふっ、どっちだと思う?」
「んー、分かんない」
「ならそれでもいいのさ。僕は僕。テシアさ」
「じゃあ……お姉さん。その方がカッコいいから」
「そうかいそうかい」
テシアは笑ってジナの頭を撫でてやる。
どうしてお姉さんだとカッコいいのかは知らないけれど褒められているのでそのまま受け取っておく。
女の子だからこうして助けてくれようとするのがお姉さんなら憧れるのかもしれない。
「テシアさーん! ハニアスさーん!」
「ん?」
「お母さん!」
背の高いハニアスがひょいとジナを肩車して母親が見えないかなんて話していたらキリアンが戻ってきた。
その後ろには女性を連れている。
ジナの顔がパッと明るくなった。
ハニアスがジナを下ろしてやると母親の元に駆け寄って抱きつく。
「もう、あんなによそ見して止まっちゃダメだって言ったじゃない」
「ごめんなさい」
「無事でよかった……」
母親はジナのことをぎゅっと抱きしめる。
「見つけたんだね」
「ええ、何かを捜すようにキョロキョロしている人がいたので声をかけてみたら当たりでした」
母親の方もジナがいないことに気がついて捜していた。
それをキリアンが見つけ出して連れてきてくれたのである。
「良かったですね」
「そうだね。キリアンもジナのこと泣かせっぱなしにならなかったし」
「ハハッ……また助けられちゃいましたね」
「君のためじゃないさ。ジナのためだ。それに母親を見つけ出したのは君だ。よくやったね」
「俺は子供じゃないですよ……」
「良いじゃないか、善いことをしたんだから」
テシアはジナにやったようにキリアンの頭を撫でる。
少し困惑していたけれど褒められてはいるので気分は悪くなく、キリアンは少し腰をかがめるようにして撫でられるのを受け入れていた。
けれど急に目の前に現れたキリアンに、いっぱいいっぱいになっていたジナはパニックになって泣き出してしまったのである。
「泣かなくても大丈夫。このお兄さんも怖い人じゃないからね」
「うん……」
しかし少し困ったものであるとテシアは思う。
大きな町なので市場も意外と大きい。
町に住む人だけでなく近くの農村などからも物を売りに来ている人や行商人なんかもいる。
小さい町なら一本の路地で入り口出口が一つなこともあるが、ここはいくつか入り口と言える場所がある。
もしかしたら母親はどこの入り口かまで指定しているのかもしれないけれどジナがとりあえず市場の入り口ということだけ覚えている可能性もある。
だが下手に動くと入れ違いになってしまうこともありうる。
「まあここで待っているのが1番安心かもしれないね」
それなら変に母親を捜しにいくよりもジナがいないことに気づいて入り口を捜し回るのを待った方が確実である。
「じゃあ僕と待ってようか。ジナ、お菓子は好きかい?」
「うん、好き」
「お母さんには秘密で少しおやつにしよう」
テシアはハニアスが持っている買ってきたものが入っている紙袋をゴソゴソと漁って焼き菓子を取り出した。
日持ちがするように硬めに焼いたクッキーだった。
お店の店主が勧め上手でついつい買ってしまったものである。
「はい」
「…………で、でも」
「ん?」
「知らない人から物をもらっちゃダメだって」
母親もジナもしっかりしているなとテシアは思った。
「ジナは教会にお祈りに行ったりするかい?」
「うん、週末には教会に行くんだ」
「僕も彼女も教会で神様に仕える神官なんだ」
「そうなの?」
「そう、だから悪い人じゃないし大丈夫だよ」
「……うーん」
多少無理やりな説明。
いけるかなと思ったけれどジナはしっかりしていた。
「じゃあ……ハニアス、アーン」
「へっ?」
「アーンだって」
「ア、アーン」
言われるままにハニアスが口を開けるとクッキーを一つ放り込む。
「むぐ」
クッキーを入れられてハニアスは不思議そうな顔をしながらもぐもぐと口を動かす。
噛んでいると自然な甘みの広がる美味しいクッキーである。
「キリアン、アーンだ」
「な、なんでですか?」
「いいから」
「……アーン」
ちょっと恥ずかしくてキリアンは耳を赤くしながら口を開けてクッキーを受け入れた。
「ほら、安全なクッキーだ。これで誘って怪しい場所にでも行こうなんて言わないよ。食べるだけなら問題ないだろ」
「……そう、だね」
「ほらジナ、アーン」
「……あーん」
「うん、いい子だ」
テシアがクッキーを口に入れてあげるとジナはモグモグと口を動かした。
「そうだな……キリアン」
「ん……なんでしょうか?」
意外とクッキー美味しいな、なんて思っていたキリアンは慌ててクッキーを飲み込んだ。
「母親を捜してきてはくれないかい? きっと子供を探している女性がいるはずだ。今ジナが動くのはすれ違いになるかもしれないけど誰かが母親の方を捜してもいいはずだ」
「分かりました! 俺が責任を持って捜してきます」
ジナも落ち着いてきた。
少し時間も経っているので母親もジナがいないことに気がついて捜しているはずだ。
キリアンが市場の方に走っていって母親を捜しにいった。
普通の町よりは大きな市場であるが広くても市場の範囲は限定される。
そう時間もかからずに母親は見つかるだろうと思った。
「そうか、好きな子がいるんだね」
ただ待っていても暇なのでジナの話を聞く。
近所の男の子が好きだとジナは頬を赤らめていてテシアとハニアスでそれを微笑ましく見ていた。
「恋はいいねぇ」
「テシアおね……お兄さん? おねえさん? お兄さん……?」
ジナはテシアに好きな人がいるかと聞こうとして、テシアが男性か女性か分からなくてジナは首を傾げた。
「ふふふっ、どっちだと思う?」
「んー、分かんない」
「ならそれでもいいのさ。僕は僕。テシアさ」
「じゃあ……お姉さん。その方がカッコいいから」
「そうかいそうかい」
テシアは笑ってジナの頭を撫でてやる。
どうしてお姉さんだとカッコいいのかは知らないけれど褒められているのでそのまま受け取っておく。
女の子だからこうして助けてくれようとするのがお姉さんなら憧れるのかもしれない。
「テシアさーん! ハニアスさーん!」
「ん?」
「お母さん!」
背の高いハニアスがひょいとジナを肩車して母親が見えないかなんて話していたらキリアンが戻ってきた。
その後ろには女性を連れている。
ジナの顔がパッと明るくなった。
ハニアスがジナを下ろしてやると母親の元に駆け寄って抱きつく。
「もう、あんなによそ見して止まっちゃダメだって言ったじゃない」
「ごめんなさい」
「無事でよかった……」
母親はジナのことをぎゅっと抱きしめる。
「見つけたんだね」
「ええ、何かを捜すようにキョロキョロしている人がいたので声をかけてみたら当たりでした」
母親の方もジナがいないことに気がついて捜していた。
それをキリアンが見つけ出して連れてきてくれたのである。
「良かったですね」
「そうだね。キリアンもジナのこと泣かせっぱなしにならなかったし」
「ハハッ……また助けられちゃいましたね」
「君のためじゃないさ。ジナのためだ。それに母親を見つけ出したのは君だ。よくやったね」
「俺は子供じゃないですよ……」
「良いじゃないか、善いことをしたんだから」
テシアはジナにやったようにキリアンの頭を撫でる。
少し困惑していたけれど褒められてはいるので気分は悪くなく、キリアンは少し腰をかがめるようにして撫でられるのを受け入れていた。