「……来ませんね」
「そうだな。行こうか」
朝早く村の出口でテシアとハニアスは振り返った。
軽く男性神官に挨拶だけして出てきた。
朝早いのにそれでも家の中から覗いてくる人もいて最後まで気味の悪さが残る村という印象だった。
こんなところからは早く離れたい。
早くに出発すると言ったのにキリアンはいなかった。
寝坊しているのかもしれない。
あるいはもうついてくることを諦めたのかもしれない。
何にしてもキリアンを待つことはしないと言ってある。
一瞬立ち止まって確認したけどいないのでテシアたちはそのまま出発した。
「よろしいのですか?」
「キリアンがどうするつもりなのか分からないからね。もしかしたらここで別れる気になったかもしれない」
そもそも同行者ではない。
待つ必要がないのに待ってくるかも分からない相手を待つことなどしない。
「ついてくるつもりなら遅れても走ってくるだろう」
キリアンの怪我もだいぶ良くなっている。
仮に寝坊だとしてものんびり歩いているテシアたちに追いつくことは難しくない。
「確かにそうですね」
言われてみればその通りである。
無理に待っているよりも先に行ってしまった方が無駄がない。
ついてくるつもりだったとしたら遅れたキリアンが悪いのだ。
「すいません!」
急に道の脇から年配の女性が飛び出してきた。
テシアは剣に手をかけたが女性はそのまま地面に膝をついて頭を下げた。
「何の用だい?」
敵意のようなものは感じないがテシアは少し剣を引き抜いたまま警戒を続ける。
「一緒に来ていたあの男性はお仲間ではないのですか?」
「何? 彼は顔見知りだが……仲間というほどではない」
「今彼は危険です!」
テシアとハニアスは顔を見合わせた。
女性の切羽詰まった感じは決して冗談なんかを言っている雰囲気ではない。
「……なぜそんなことを言うのか聞かせてもらえるか?」
「あの村には危険な風習があるのです!」
「どんな風習が?」
「顔の良い男性を生贄に捧げるというとんでもない風習なんです」
「そんなものが? まさか……」
流石にそれは冗談だろうとハニアスは驚いた。
顔の良い男性を生贄に捧げる風習とは何なのだ。
「いや、笑い事ではないかもしれないよ」
「そうなのですか?」
「例えば海が荒れないようにと海の神様に捧げ物をするのは港町なんかではありがちなことだ。だけど一部の地域ではそのために生娘を捧げる、なんて馬鹿げたことをするところもあるんだ」
大量や荒れた海にならないようにと海の神様に捧げ物をするお祭りや儀式を行なっているところは少なくない。
お祈りなんかで済ませるところもあれば食べ物なんかを捧げるなどところにより様々である。
しかし中にはかなり過激で人を捧げるところもある。
今ではそんなところはほとんどないが隠れて続いているところがないとは言い切れない。
「じゃあキリアン様も?」
「もしかしたらそう言った類の風習があの村にあったのかもしれないね」
そう考えると辻褄は合う。
村のやたらと怪しい雰囲気、余所者を警戒する態度、来ないキリアン。
「あなたは何者で、どうしてそんなことを知っている? あの村の人なのか?」
ただしこの女性も信頼できるものではない。
いきなり現れてキリアンが危ないと言われても疑わしいものである。
「私はメリノ。私には昔一人の息子がいました。行商をしていたのですが急に連絡が途絶えたのです。私は息子を探しました……そして息子の痕跡が途絶えた近くにあるこの村と、この村にある忌まわしき風習について知ったのです」
「誰かにこのことは?」
「誰が信じてくれるというのですか。こんな平凡な村で恐ろしい儀式が行われているなんて……それに毎年ではなく、何年かに一度で顔の良い男性が立ち寄った時に行われるのです」
「儀式の時期だったから村に入る前からピリついていたのかもしれないね」
「やはりあの男の人は出てきませんでした。お二人だけそのまま出てましたのでどうしたのかと……」
キリアンとの関係性としては少し特殊なものになる。
泊まる場所も違うし仲間というより単純に同行しているぐらいなものなのだ。
「どうなさいますか?」
「はぁ……これは流石に無視してはいけないよね」
女性の話がウソだとしても本当だとしても確かめておくべきだ。
本当にそんな風習で人を殺そうとしているのなら止めなければならない。
「戻って確かめてみよう。もし無事だったらキリアンは殴る」
「それは……」
いささか傍若無人がすぎる。
しかし無事でいたのなら遅れたせいで引き返す羽目にはなった。
正当な理由でもない限りはハニアスも止めはしないかもしれないとちょっとだけ思った。
ひとまずキリアンの無事を確かめに行くことにした。
けれど油断はできない。
後ろから襲いかかってくる可能性もあるのでメリノを前に立たせて村に戻る。
「……誰もいない」
村はもぬけの殻になっていた。
窓から覗いていた人も外に出ている人も教会の神官すらいなかった。
無人の宿に踏み込んでみたけれど宿の人もキリアンもいなかった。
「そうだな。行こうか」
朝早く村の出口でテシアとハニアスは振り返った。
軽く男性神官に挨拶だけして出てきた。
朝早いのにそれでも家の中から覗いてくる人もいて最後まで気味の悪さが残る村という印象だった。
こんなところからは早く離れたい。
早くに出発すると言ったのにキリアンはいなかった。
寝坊しているのかもしれない。
あるいはもうついてくることを諦めたのかもしれない。
何にしてもキリアンを待つことはしないと言ってある。
一瞬立ち止まって確認したけどいないのでテシアたちはそのまま出発した。
「よろしいのですか?」
「キリアンがどうするつもりなのか分からないからね。もしかしたらここで別れる気になったかもしれない」
そもそも同行者ではない。
待つ必要がないのに待ってくるかも分からない相手を待つことなどしない。
「ついてくるつもりなら遅れても走ってくるだろう」
キリアンの怪我もだいぶ良くなっている。
仮に寝坊だとしてものんびり歩いているテシアたちに追いつくことは難しくない。
「確かにそうですね」
言われてみればその通りである。
無理に待っているよりも先に行ってしまった方が無駄がない。
ついてくるつもりだったとしたら遅れたキリアンが悪いのだ。
「すいません!」
急に道の脇から年配の女性が飛び出してきた。
テシアは剣に手をかけたが女性はそのまま地面に膝をついて頭を下げた。
「何の用だい?」
敵意のようなものは感じないがテシアは少し剣を引き抜いたまま警戒を続ける。
「一緒に来ていたあの男性はお仲間ではないのですか?」
「何? 彼は顔見知りだが……仲間というほどではない」
「今彼は危険です!」
テシアとハニアスは顔を見合わせた。
女性の切羽詰まった感じは決して冗談なんかを言っている雰囲気ではない。
「……なぜそんなことを言うのか聞かせてもらえるか?」
「あの村には危険な風習があるのです!」
「どんな風習が?」
「顔の良い男性を生贄に捧げるというとんでもない風習なんです」
「そんなものが? まさか……」
流石にそれは冗談だろうとハニアスは驚いた。
顔の良い男性を生贄に捧げる風習とは何なのだ。
「いや、笑い事ではないかもしれないよ」
「そうなのですか?」
「例えば海が荒れないようにと海の神様に捧げ物をするのは港町なんかではありがちなことだ。だけど一部の地域ではそのために生娘を捧げる、なんて馬鹿げたことをするところもあるんだ」
大量や荒れた海にならないようにと海の神様に捧げ物をするお祭りや儀式を行なっているところは少なくない。
お祈りなんかで済ませるところもあれば食べ物なんかを捧げるなどところにより様々である。
しかし中にはかなり過激で人を捧げるところもある。
今ではそんなところはほとんどないが隠れて続いているところがないとは言い切れない。
「じゃあキリアン様も?」
「もしかしたらそう言った類の風習があの村にあったのかもしれないね」
そう考えると辻褄は合う。
村のやたらと怪しい雰囲気、余所者を警戒する態度、来ないキリアン。
「あなたは何者で、どうしてそんなことを知っている? あの村の人なのか?」
ただしこの女性も信頼できるものではない。
いきなり現れてキリアンが危ないと言われても疑わしいものである。
「私はメリノ。私には昔一人の息子がいました。行商をしていたのですが急に連絡が途絶えたのです。私は息子を探しました……そして息子の痕跡が途絶えた近くにあるこの村と、この村にある忌まわしき風習について知ったのです」
「誰かにこのことは?」
「誰が信じてくれるというのですか。こんな平凡な村で恐ろしい儀式が行われているなんて……それに毎年ではなく、何年かに一度で顔の良い男性が立ち寄った時に行われるのです」
「儀式の時期だったから村に入る前からピリついていたのかもしれないね」
「やはりあの男の人は出てきませんでした。お二人だけそのまま出てましたのでどうしたのかと……」
キリアンとの関係性としては少し特殊なものになる。
泊まる場所も違うし仲間というより単純に同行しているぐらいなものなのだ。
「どうなさいますか?」
「はぁ……これは流石に無視してはいけないよね」
女性の話がウソだとしても本当だとしても確かめておくべきだ。
本当にそんな風習で人を殺そうとしているのなら止めなければならない。
「戻って確かめてみよう。もし無事だったらキリアンは殴る」
「それは……」
いささか傍若無人がすぎる。
しかし無事でいたのなら遅れたせいで引き返す羽目にはなった。
正当な理由でもない限りはハニアスも止めはしないかもしれないとちょっとだけ思った。
ひとまずキリアンの無事を確かめに行くことにした。
けれど油断はできない。
後ろから襲いかかってくる可能性もあるのでメリノを前に立たせて村に戻る。
「……誰もいない」
村はもぬけの殻になっていた。
窓から覗いていた人も外に出ている人も教会の神官すらいなかった。
無人の宿に踏み込んでみたけれど宿の人もキリアンもいなかった。